デルタ-シグマADCのノイズに関する包括的な理解を深めるために、代表的なシグナルチェーンの一般的なノイズ源を調べ、ノイズを低減して高精度の測定を維持する手法を解説していきます。第1回は、ADCノイズの基本を重点的に見ていきながら、「ノイズとは何なのか」「高分解能ADCと低分解能ADCではノイズにどのような違いがあるか」などの疑問について、詳しく説明していきます。
シグナルチェーン設計における基本的な課題の一つが、アナログ−デジタル・コンバーター(以下、ADC)で対象とする信号を決定できるように、システムのノイズフロアを十分に低く抑えることです。消費電力の最小化、基板面積の縮小、コスト削減のための対策を行っていても、ノイズレベルが入力信号を上回れば、実質的にどのような設計も役に立たなくなります。つまり、シグナルチェーンノイズやそのアナログ−デジタル変換に対する影響および、その影響を最小限に抑える方法についての理解は、全てのアナログ設計者にとって基本的な知識といえます。
そのため、この連載「アナログ設計のきほん/ADCとノイズ編」では、デルタ-シグマADCのノイズに関する包括的な理解を提供することを目的としています。代表的なシグナルチェーンの一般的なノイズ源を調べ、ノイズを低減して高精度の測定を維持する手法を解説します。
本記事で取り上げるのは、正確度ではなく精度(ノイズ)であるという点です。この2つは区別なく用いられることの多い用語ですが、シグナルチェーン設計において関連はあるものの、別の側面を指しています。高性能データ収集システムを設計する際は、ノイズを最小限に抑えるだけでなく、オフセット、ゲイン誤差、積分非直線性(INL)、ドリフトなどの不正確度に起因する誤差を考慮することが必要です。
連載第1回(=今回)では、ADCノイズの基本を重点的に見ていきながら、以下のようなトピックに関する疑問に答えて、詳しく説明していきます。
第2回では、以下のトピックに焦点を移していきます。
第3回では、抵抗性ブリッジを使用した設計例の全体を段階的に見ていきながら、第1回と第2回で紹介する理論がどのように現実のアプリケーションに応用されているかを説明します。
ノイズとは、期待される信号に加えて元の値から逸脱するような望ましくない信号(通常はランダム)です。ノイズは全ての電気システムに固有のものなので、「ノイズフリー」の回路は存在しません。
図1は、実際の世界でノイズがどのように発生するかを示しています。ノイズがフィルタリングされた画像と、フィルタリングされていない画像です。図1左の画像は細部が鮮明なのに対して、図1右の画像はほぼ完全にノイズに覆われています。図1の2つの画像がほとんど何の類似点もなくなっているのと同じように、アナログ−デジタル変換プロセスでは、アナログ入力とデジタル出力の間で情報が失われる結果になります。
電子回路内のノイズは、以下に示すような、さまざまな形で発生します。
これらの形態のノイズは、以下に示す複数のノイズ源を介してシグナルチェーンに侵入します。
図2は、代表的な信号チェーンにおけるこれらのノイズ源を表しています。
連載第1回から第3回では、ADCの固有ノイズのみに焦点を絞って見ていきます。より包括的に理解できるように、残りの回路部品のノイズ源については、個別の記事で説明します。
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