802.3bt規格には次のように記載されています。
「PDは、ケーブルに物理的に接続する箇所で規定する。電圧補正回路による損失、電源の非効率性、外部グラウンドからの内部回路の分離といった特性や、PIコネクター以降の回路によって生じる他の特性は規定しない。特に記載されていない限り、PDに関して定義する限界値はPIの位置で規定し、PD内部のいかなる箇所においても規定しない」
以下に、堅牢な設計アーキテクチャを構築するために、設計者が考慮すべき点をいくつか挙げます。
1)PSEとPD間のチャンネル内の他のデバイス(ダイオード、トランスなど)に起因する電流のアンバランスに注意してください(図3参照)。設計者がこのアンバランスを認識していれば、オプションを使用することでそれを軽減できます。これは設計アーキテクチャによって異なります。確実なのは、良好なグラウンドプレーンと大電流を流す幅の広いグラウンドリターンを使用することです。
2)イーサネットケーブルのペア間電流アンバランス:ここでの問題は、ケーブルメーカーがペア間アンバランス仕様を試験したり、設計者に提供したりすることがほとんどなく、通常は1ペア内のアンバランスを規定するにすぎないことです。
3)ケーブルの発熱に注意:通常、ケーブルの発熱については多くのデータを入手できますが、設計者は温度上昇を制御できる状態に維持する必要があります。IEEEの作業部会は、温度上昇を10°C未満に制限する必要があると決定しました。IEEEの作業部会では、ケーブルの導体全てに300mAの電流を適用しました。これは、アンバランスのない状態で、ケーブル長100mごとに51Wの電力が供給されている状態と同じです。これについては、いくつか解決策があります。例えば、抵抗がより低いケーブルを使用してI2R損失を低減する、各ケーブルバンドルで使用するケーブル数を少なくする、あるいはバンドル内の一部にのみ電力を供給するといった具合です。
任意のケーブルに対して消費電力(発熱)を測定する正しい方法は、負荷として定電力シンクを使用し、入力電源として電圧源を使用することです。
ケーブル発熱の研究には、ケーブルバンドルを2.0Aで試験するものもあります。そのため、24AWGのケーブルを使用する場合、ケーブル中の電力密度は164mW/mとなります。電力密度は、単位長当たりのケーブル消費電力なので、次式が成立します。
164 mW/m = ((2.0A)2 x 4.09 Ω)/100m)
チャンネル抵抗RChは、24AWGの固体の銅の20℃での抵抗率に基づきます。
4)PDに供給される電力(PDは定電力負荷)とPSEの電力出力の間には、非線形の関係があります。PDは全て電力需要が異なります。PDの電流需要が増加すると、ケーブルでのIR損失による電圧降下が大きくなります。PDには必要とする電圧よりも低い電圧しか供給されないため、より多くの電流が必要になります。結局、PD電圧を高くし、低電流で使用することにより、この影響を安定させることができます。安全上の理由から、PSE電圧は最大57V以下に制限します。
メーカーがデモボードまたはレファレンス設計を提供している場合、必ずそれをアプリケーションに使用してください。これらのボードは、適切なパターンとグラウンド手法を用いて慎重に作成されているため、アーキテクチャの最高の性能を実現できます。アートワークのガーバーファイルは通常、メーカーからすぐに入手できますので、これらを設計に使用してください。このような方法により、最終設計の広範な試験を行う必要がなくなります。
設計の生産試験や実際のシステムの試験には、優れたソリューションがあります。例えば、Reach Technology(リーチテクノロジー)のPoE5 100 W PoE tester、または、同じくReach TechnologyのRT-PoE5 IEEE 802.3bt Power-over-Ethernet PSE Production Testerなどです。米The University of New Hampshire(ニューハンプシャー大学)のInterOperability Laboratory(インターオペラビリティ研究所)は、PoEの認証試験向けの唯一の第三者試験機関です。Sifos Technologies(サイフォステクノロジーズ)は、4ペアの試験に役立つ802.3bt PoE向けの小型新製品PowerSync Analyzerを提供しています。これらのソリューションは、堅牢なシステムを実現するのに役立ちます。
本稿では、PoEおよび802.3bt規格の内容を紹介しました。PDとPSEの定義、そして適切な信号および電力の伝送を達成する上での、PoE/802.3btの利点や限界について、理解が深まれば幸いです。
【著者】Riley Beck:ON SemiconductorのAdvanced Solutions Groupで、プロダクトマーケティングマネジャーを務める。
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