電力管理や機能安全などこれまでのクロスバーベースのインターコネクトでは実現不可能な機能が、いかにNoC(Networks-on-Chip)テクノロジーによって可能になるかについて考察します。
前回(連載第2回)では、NoC(Networks-on-Chip)がおおむねクロスバースイッチアーキテクチャに取って代わりつつある理由を説明しました。この変化は、データセンターやAIアクセラレーター、無線通信インフラなどにみられる超大規模SoC(Systems-on-Chip)で特に顕著です。ただ、IoT(モノのインターネット)デバイス、ウェアラブル端末、自動車分野の「エッジ側」で用いられるセンサーなど、より小規模なテクノロジーにおいてもこの移行が重要になりつつあります。これらのデバイスは、より大規模なデバイスと同じくらい複雑でありながらも、低フットプリント、省電力、機能安全に対する要求を満たさねばならないからです。
車の消費電力はまだ今のところ重要な要素とみなされていないかもしれません。ですが、電力を食うスマートエレクトロニクスがかつてないほど大きな役割を担うようになってくると、それも変わってくる可能性があります。インフォテインメント、センサー、センサーフュージョン、カメラ、レーダーはほぼいたるところにあり、ローカルAIが早期衝突検知に対して即座に応答し、車載イーサネットがすべてを中央プロセッサに接続します。このすべてに大量の電力が消費され、バッテリーの消耗や電気自動車の航続距離の減少につながる可能性があります。ドライバーがエンジンを切って立ち去った後でさえ、いくつかの機能は低スタンバイ電力でオン状態にしておかなくてはなりません。例えば、近接センサーは自動的にドアのロックを解除したり、エンジンをリモートで始動させるアプリからの信号を受信したりします。
車外のIoTデバイスの中には、1個のコイン電池で10年間動作することが想定されているものもあります。もっと大きなバッテリーで動作する1機のドローンを飛ばし続けるにはかなりの電力が必要です。高解像度ビデオのストリーミングには大量のエネルギーが消費されるため、不要なときはオフにしておかなくてはなりません。これらすべての例で省電力設計が必要とされます。そしてそれを実現するのが、DVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling)に始まり、ドメイン内のスイッチング、ドメインの要求時完全シャットダウンにいたるまでの「特定用途向け電力管理」です。これは、車のエンジンを切って立ち去るケースでいうと、リモートの特定イベントを監視、処理する常時オンのドメインを除き、すべてをオフにするということです。
電力管理の標準的なアプローチならエンジニアの誰もが知っています。クロックドメインスイッチング、スケーラブルな電圧および電圧ドメイン、スイッチング可能な電力ドメイン――これらはすべてIP(Intellectual Property)の電力管理に使用できるテクニックですが、インターコネクトでさらなるサポートが要求されることは明らかです。
インターコネクトは多くのIPをつないでいます。その一部がオン状態で、別の一部がオン状態かつ低電圧/低周波数で動作していて、さらに一部がオフ状態にあるかもしれません。この場合、インターコネクト内ではどのように電力管理されるのでしょう? 単一のクロックおよび、電源ドメインでよく見られるクロスバーを使用した接続の場合、接続されているデバイスがどれか一つでもオン状態にあるときはアービタが動作し続けなくてはなりません。ドメインごとに新しいインターコネクト階層を挿入することも一つのソリューションかもしれません。しかし、これではドメイン間の必要なハンドシェイクの処理がかなり繁雑になってきます。
もう一つ別の方法として、NoCテクノロジーを用いる方法が考えられます。NoCテクノロジーを使用すれば、NoCの内側と外側のパーティショニング、クリーンな遷移のハードウェアサポート、電力マネージャーによるハンドシェイク通信、要求時ウェークアップが可能になります。
高度なDVFSがサポートされているため、ネットワーク内においてIPの内部および、周辺と同じくらい効果的な低電力管理を実現できます。また、ネットワークパスに送られるべき保留中のデータが存在しなければ、そのパスへの供給電力を自動的にオフにしてよいと認識できるくらいNoCは賢いです。要するに、クロスバーを使用したインターコネクトではなくNoCを使用することで平均動作電力とスタンバイ電力をさらに低減でき、クロックドメインおよび、電力ドメイン間のすべての調整をNoCに任せられるというわけです。
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