そこで新しいSiCパワーMOSFETのモデリング手法では、オフ時の容量に加えて、オン時の容量も測定して考慮することに変更した。オン時の容量の測定はオフ時の容量と異なり、ネットワークアナライザーを使ってSパラメーターを測定することで求める。ただし、測定の際には、SiCパワーMOSFETのゲートとドレインの両方に電圧を印加し、ドレインに2〜3Aの電流を流しながら実行する。この点がオフ時の容量の測定方法と違う(図5)
こうして測定したオン時の容量は、従来のモデリング手法の手順と同じようにモデリングツール(IC-CAP-2022)に入力する。SiCパワーMOSFETのデバイスモデルは数式で表現しており、その数式にはいくつものパラメーターが含まれている(図6)
モデリングツールは、入力されたさまざまな測定結果を基にパラメータを自動的に最適化して出力する。しかし、この段階のパラメーターで構成したデバイスモデルでは、測定結果とシミュレーション結果は完全に一致しない。そこでモデリングツールに用意している「チューニング・バー」を使って、電源回路設計者がパラメーターを微調整する。こうして測定結果とシミュレーション結果を完全に一致するように、デバイスモデルパラメーターを抽出するわけだ。
ただし、このチューニング・バーを使ったパラメーターの微調整作業には注意が必要である。1つの特性を合わせると、ほかの特性がズレてしまうからだ。パラメーターは複数の数式に関与しているケースが多い。このため「あちらを立てれば、こちらが立たない」といった事態を招く。
電源回路設計者の手で微調整したデバイスモデルを使って回路シミュレーションを実行した結果が図7である。スイッチング動作時の電圧波形や電流波形に現れるリンギングやオーバーシュートの大きさや周波数が一致しているほか、従来はズレがかなり大きかったターンオフ時におけるVds(ゲート-ソース間電圧)の降下のタイミングや傾きや、Vds(ドレイン-ソース間電圧)の上昇のタイミングや傾きもほぼ一致している。
このシミュレーション結果を使って、電源回路の変換効率を求めたところ、測定結果とのズレをターンオン時に約15%、ターンオフ時に約5%に抑え込むことに成功した。この程度の差異であれば、SiCパワーMOSFETを採用した実際の電源回路設計に適用することができるだろう。
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