ウエハー製造の面では、SiC関連でさまざまな活動が進んでいる。例えばWolfspeedは、約100億米ドルを投じ、米国ニューヨーク州マーシーにSiCの200mmウエハー工場を新設している。Oliver氏は、「このようなSiCプレイヤーたちは、自らの運命をコントロールすべく投資を拡大している。4年前は、Wolfspeed(旧Cree)が唯一のSiCウエハーメーカーだったため、ウエハー価格は3000米ドルだった。しかし、現在では、SiCウエハーの認定サプライヤーは8社存在するため、価格が約1000米ドルまで下がっている」と述べる。
Oliver氏は、「ウエハー価格は、今後4年間で400米ドルになる可能性がある。このため、SiCウエハーは汎用品になるだろう。汎用品になれば、生産能力はもはや強みにはならない。つまり、垂直統合型の供給プロセスは強みでなくなるのだ。強みになるのは、チップ設計だ」と述べる。
また、同氏は、「その一方、GaNは先端材料ではあるが、GaN半導体には古いプロセスを適用できる。シリコン半導体の設計者が12nm以降の半導体プロセスノードを検討している中、われわれはGaNデバイス向けに500nmの処理装置を使用しているのだ。Navitas はGaN半導体の製造を、TSMCが現在稼働させている工場の中でも最も古い『Fab 2』で行っている。減価償却が完了した製造装置を利用しながら、極めて高い品質と生産能力を提供することができる」と主張する。
同氏は、「GaNの良いところは、古い工場を改造し利用することが可能なため、数十億米ドルを投じて新工場を設立せずに済むという点だ。米国には旧型の半導体を製造する古い工場が40カ所あり、全てGaNまたはSiC半導体向けに改造することが可能だ。米国内にはGaNやSiC関連の生産能力が豊富にあるといえる」と付け加えた。
Witham氏もGaN製造に関して、Oliver氏の見解に共感している。Witham氏は、「SiCデバイスではウエハー生産能力が問題になる可能性があるが、GaNでは生産能力の追加に必要となるのは、数百万米ドル程度なので問題にはならない。中国、台湾、韓国の工場では、数百万米ドルの装置でGaNデバイスを製造している。このような『ミニバンサイズ』の装置があれば、数百万米ドルで生産能力を増強できるのだ」と語った。
2022年夏、NavitasはSiCメーカーのGenSicを買収したが、この買収の背景には興味深い理由がある。Oliver氏によると、GaNデバイス市場規模はおよそ130億米ドルだが、そのうち上位に相当する40億〜50億米ドルは、SiCと重複する分野があるのだという。「GaNもSiCも両方使えるアプリケーションがあるので、SiCをラインアップに加えれば、市場は220億米ドルまで広がる」(同氏)
Oliver氏は、「実際、Navitasの自動車設計エンジニアは、GenSic買収を非常に喜んでいた。これで、GaNの設計を無理に押し進める必要がなくなったのだ」と付け加えた。
GaNとSiCはどちらも新しい技術であり、設計上の工夫だけでなく、アプリケーションの多様化も急速に進んでいる。Witham氏が言うように、GaNとSiCデバイスには、それぞれ固有の市場が形成されつつあるが、市場の重複もある。
【翻訳:田中留美、編集:EDN Japan】
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