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一発屋で終わったけど抜群の影響力、TI「TMS1000」マイクロプロセッサ懐古録(5)(1/4 ページ)

今回はTexas Instruments(TI)が開発した「TMS1000」を紹介する。「MCUの最初の製品」とも称されるものだ。TIの製品としては短命だったが、IntelやMicrochip Technologyなどの製品に幅広く影響を与えた。

» 2025年06月25日 10時00分 公開
[大原雄介EDN Japan]

電卓が大ヒットした時代

 MCU、つまりMicrocontrollerの最初の製品として評されるものにTexas Instruments(TI)の「TMS1000」がある。このTMS1000シリーズはCPUコアにSRAMとROM、周辺回路などを全部ワンチップ化しており、昨今のMCUと(個々のコンポーネントとかの差はあるにしても)同じ構成になっている。何でTIがこれを生み出したか?というと、その前世代製品である「TMS0100」、あるいは「TMS1802」という製品の存在が大きい。

 1960年代末から、業界では電子卓上計算機が猛烈な売り上げを占めるようになっていた。世界初の電気式計算機は1959年の「CASIO 14-A」(図1)、世界初の電子式計算機は1961年の「Bell Punch ANITA Mark VII/Mark VIII」(図2)だが、いずれも超大型でお値段も高く、せいぜいが大企業の部門に導入するとかその程度だった。ところがこれらはすぐさまトランジスタに置き換えられ、そしてDiscrete ICによってさらに置き換えられてゆく。

図1:Casio Calculator Museumより。1080mm×780mm×445mm、140Kgという巨大なシステム。342個のリレーを利用し、14桁の演算が可能だった、らしい。1959年当時のお値段は48万5000円だそうだ
図2:こちらはANITA Mark VIII。370mm×450mm×240mm、13.6Kg。当時の価格で360ポンド。真空管式である。出典はWikiMedia

 世界最初のパーソナルコンピュータとして知られる「Altair 8800」をリリースしたMITS(Micro Instrumentation and Telemetry Systems)の最初のビジネスは電卓であり、パーツのみの組み立てキットが179米ドル、完成品は275米ドルで発売。1973年の同社の売上高は10万米ドルに達している。もっとも、こうした状況を他の企業が指をくわえて見ていたわけではなく、当然同種の製品をより安く投入する事で価格のたたきあいに突入、MITSも電卓ビジネスから撤退して代わりにパーソナルコンピュータに参入する訳だがそれはともかく。

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