知人からPFC電源の焼損の相談があった。半導体工場で装置の電源部品の焼損事故が発生して、装置内に煙が充満したようだ。今回、その原因や対策を紹介する。
知人からPFC電源の焼損の相談があった。
電源の部品の焼損で、発煙した雰囲気が装置内に充満し製品へ付着した。この電源の焼損は2回目だ。
半導体工場で焼損事故が発生して、煙が充満したようだ。筆者は25年ほど前に半導体製造装置の業務経験があり装置安全責任者でもあったが、半導体の工場では発煙や発火の事故は重大な問題を引き起こすことを過去に経験している。
1990年ごろEUの規格としてCEマーキングが制定された。PFC回路は電源ユニットの力率を上げて高調波の発生を少なくする電源で、CEマーキングでは環境にやさしい装置や電源ユニットしかEUへは輸出できなくなった。当時、欧州に出張して地元の顧客と面談し、CEマーキングの検査会社へ日本での現地検査を依頼し、自己認証の形だが装置は継続してEUへの輸出を続けた。当時はPFC回路を理解した電源設計者は少なく回路に使用される部品はEUにしかなかった。その結果、非関税障壁の形でCEマーキングがスタートした。
CEマーキングへの対応で装置の周辺機器の設計において取引先と協力し、電源ユニットの力率を上げるため、3相電源を全波整流し、導通角を上げて、力率90%の電源を開発できた。しかし、2000年ごろに装置に使用する電源ユニットもCEマーキングの対象になり、PFC回路の電源を採用せざるを得なくなった。
PFC電源では従来の電源に比較して高調波は少なくなったが、部品点数が増えて、電源の価格が高くなり、効率も信頼性も低下した。安全性についても、DC385Vの高電圧を電源内に内蔵するため危険性が増えてしまった。当時は、PFC回路は新しい回路であり、どのように部品が劣化していくのか、何も情報がなかった。
CEマーキング対応が落ち着いた後は、装置に使用される購入品の社内規格を大幅に見直し、2つの点を追加した。一つ目は寿命だが、基本的には10年保証とし、納入仕様書には10年より寿命が短い部品のリストを追加させた。二つ目は、寿命部品が劣化した時に電源が焼損しないことを確認する評価試験の実施および報告書の提出ださせた。このような対策を実施したことで製品の信頼性は向上し、取引先の技術力も向上したと思う。
話題をPFC回路搭載電源の焼損事故に戻そう。具体的な電源の型名や焼損した基板の写真も提供されたが知人に迷惑が掛からないよう、詳細は伏せておく。問題が発生した同じ機種の電源の写真を図1に示す。
図1左は同じ電源ユニットの部品面で右がはんだ面だ。部品面の基板内には配線が飛び交っていて、完成した電源には見えなかった。電源の型名から電源ユニットの情報を入手したが、最大電力は500Wでヒューズの電流は10Aの米国製の電源ユニットだった。
部品面の写真で回路の接続を追ってみた。左上の端子台にAC電源が接続されヒューズとノイズフィルターを通し、左下のダイオードブリッジで整流されていた。そして左中央にあるチョークコイルを通して、すぐ上の大型の電解コンデンサーを充電していた。
この接続でPFC回路であることがはっきりした。部品の配置から電解コンデンサーが発熱部品に囲まれていて、電解コンデンサーの寿命を十分に配慮していないパターンの設計であることも分かった。
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