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ファミコンにも採用された「MOS 6502」、その末路をたどるマイクロプロセッサ懐古録(6)(3/4 ページ)

» 2025年07月30日 12時00分 公開
[大原雄介EDN Japan]

古巣のMotorolaが提訴

 ただ当然、古巣であるMotorolaもこれを黙って見ている訳もなく、1975年11月にMOS Technologyを提訴。最終的にMOS TechnologyはMotorolaに20万米ドルを支払うと共にMOS 6501の製造を中止。また訴訟の中で指摘されていた、Motorolaが機密と主張する文書を返却した。これにあわせて両社はプロセッサ特許の相互ライセンス契約を締結して、MOS 6501以外のプロセッサの販売には何の支障もなくなったが、20万米ドルの賠償金+訴訟費用はMOS Technologyを立ち行かなくさせるには十分な金額であり、結果1976年11月にMOS TechnologyはCommodoreに買収される。同社はCSG(Commodore Semiconductor Group)に改称されるが、CSG時代には目立った新製品を出せずにおり、親会社のCommodoreが1994年に倒産するとCSGはGMT Microelectronicsという名称でスピンアウトするものの、2000年に倒産する。

 MOS 6502は内部構成の最適化や簡略化などもあって、ある種の処理ではMC6800の4倍の処理性能が発揮できるなんて話もあった一方で、いろいろ命令を削減したことで例えばポインタ処理などは面倒くさくなっており、全体として言えば癖のあるプロセッサに仕上がった。とはいえ低価格で処理性能も高く、周辺回路もシンプルに構築できるという事もあって、冒頭にも書いたようにCommodoreのさまざまな製品やAtari Lynx、BBC MicroやAcorn System/Acorn Atomとさまざまなところで採用された。

6502の派生品、開発する力はどこにもなく

 実はこの辺から話がさらに複雑になってくるのだが、MOS TechnologyはRockwell InternationalとSynertekの2社とセカンドソース契約を結んでいた。この当時の製造プロセスはNMOSである。ところが1978年、Bill Mensch氏がMOS Technologyを辞して自分の会社であるWDC(Western Digital Center, Inc.)を設立し、ここでCMOSバージョンの6502であるWDC W65C02を開発する。Mensch氏は1974年にMotorolaからMOS Technologyに移籍した8人のうちの1人であり、6502に関わる特許も保有していた。

 同氏が開発したCMOSバージョンの6502は、これもさまざまな会社にライセンスされる。冒頭で任天堂向けにリコーが6502を供給したという話をご紹介したが、このリコー 2A03は実はRockwellが開発したCMOSバージョンの6502のセカンドソースだったらしい。実のところ、1976年にMOS TechnologyがCSGになって以来、もともとの6502の開発チームはほぼバラバラになってしまった。Mensch氏は自身でWDCを設立した訳だが、他の面々もCSGから離脱(例えばChuck Peddle氏は1980年にSirius Systems Technologyという会社を創業しているし、Rod Orgill氏はHPに転職している)してしまい、もう6502の派生型そのものを開発する能力を失っていた。MOS Technology時代には、「MOS 6503/6504/6505/6506/6507」(MOS 6502のアドレスピンの数とパッケージを変更した派生型)と「MOS 6512/6513/6514/6515」(MOS 6501のアドレスピンの数とパッケージを変更した派生型。6501の派生型なので外部クロックが必要)が発売されたが、ついにCMOSへの移行は適わず、これはRockwellとかWDCなどのセカンドソース企業が成し遂げており、リコーはそのセカンドソースのセカンドソースとして2A03を生産したというわけだ。

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