SSDを選択する上での基本要件は性能と耐久性ですが、エッジ環境での使用を考えた場合、電源供給の制限、過酷な熱環境、設置スペースの制約などの要件についても考慮する必要があります。多くのエッジデバイスは、データセンターのように空調の整った場所ではなく、屋外、車載、工場などの産業施設といった過酷な環境に設置されます。こうした環境においては、SSDの選択が消費電力や発熱量、過酷な条件下でのシステム安定性を左右します。
一般的にSATA SSDはエネルギー効率が良いとされていますが、PCIeベースのNVMe SSDは、それと同等以上の性能を発揮しながら、多くの場合で転送バイト当たりの消費電力をより低く抑えられます。
主な理由の1つは、使用されているインタフェースの違いです。SATA SSDには、HDDの使用を前提としてSATAに最適化されたAHCI(Advanced Host Controller Interface)が採用されています。NVMeと比べた場合、AHCI SSDはオーバーヘッド(付加的な処理)が発生するのでデータ転送時に多くの電力を消費してしまいます。NVMe SSDはAHCIのオーバーヘッドがなく、さらに、バスへの直接アクセス、効率的な電源管理を実現するASPM、APST、L1.2といった最新の省電力モードによって消費電量を効率化できます。
特にファンレスシステムやバッテリー駆動のエッジデバイスでは、NVMeの高速処理によってアクティブ時間が短縮され、結果として全体の消費電力を削減可能です。また、現在のNVMe SSDには10nm未満の微細プロセスで製造されたコントローラーを採用するものもあり、動的消費電力(ダイナミック消費電力)を低く抑えられます。これらのコントローラーは高度な電力管理機能を備えているので、高温時には速度を調整することで安定した機能を維持します。
NAND型フラッシュメモリ技術がSLC(Single Level Cell)からMLC(Multiple Level Cell)、さらにTLC(Triple Level Cell)へと進化する中で、大容量SSDのコストは下がりました。しかし、これらのNAND型フラッシュメモリが全てエッジアプリケーションに適しているとは言えません。エッジ環境においては、耐用期間や長期的なデータ保持性能といった耐久性に注目したストレージ選びが重要です。
耐久性を高める技術の1つに疑似SLC(pSLC)があります。これは、1セル当たり3ビットの情報を記録するTLCを、1セル当たり1ビットで動作させる技術です。容量は3分の1に減りますが、耐用期間を最大33倍に延長でき、メモリの長期間にわたる使用や大量のデータ書き込みが要求されるアプリケーションに適しています。
SSD容量の一部をファームウェアによって予備ブロックとして割り当てるオーバープロビジョニング技術も有効です。これによって、使用していないメモリを開放するガベージコレクションの効率を高められます。これらの技術は、5年以上のメンテナンスフリー稼働が求められるエッジシステムにおいて、信頼性と安定性の向上に大きく貢献します。
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