今回はシングルペアイーサネット(SPE)の特長や規格、適用事例などを紹介します。
本連載はリョーサンが運営するマガジンサイト「リョーサンテクラボ」に掲載された記事を転載しています。本記事は2025年12月10日に公開されたものです。
従来、基本的に4ペア8本のケーブルが必要だったイーサネット通信を、わずか1ペア2本で実現する革新的な技術、それがシングルペアイーサネット(SPE)です。自動車の電気自動車(EV)化を契機に開発が始まったこの技術は、今や産業機器からスマートシティーまで、あらゆる分野での活用が期待されています。通信と電力供給を1本のケーブルで同時に行え、最大1000メートルの長距離通信も可能です。
本記事では、SPEの技術的な特徴から国際規格、具体的な適用事例、そして普及に向けたロードマップまで徹底解説します。
ここではSPEとは何かについて、分かりやすく解説します。
自動車のEV化から始まった新しい通信規格
SPEとは、その名の通り1組のツイストペアケーブルでイーサネット通信を実現する革新的な通信規格です。
この技術は2015年頃、自動車のEV化に向けた標準化の動きとともに開発が始まりました。当初は自動車業界のニーズから生まれた技術でしたが、現在ではその枠を超えて、スマートシティーやファクトリーオートメーション(FA)機器、ビルオートメーションなど、幅広い分野での活用が期待される次世代ネットワーク技術として注目を集めています。
従来のイーサネットとの決定的な違い
従来のイーサネット通信では、ファストイーサネット(100Mビット/秒)の場合は2ペア、ギガビットイーサネットでは4ペアのケーブルが必要でした。これに対してSPEは、文字通り1ペアのケーブルのみで通信を行います。
例えば、従来1Gビット/秒の通信を行うには4ペアのケーブルが必要でしたが、SPEでは同じ10Gビット/秒の通信を1ペアだけで実現できます。これは通信技術における大きな進歩を意味し、4ペアから1ペアへの削減は単なる本数の減少以上の意味を持っています。
コネクターとケーブルの劇的な小型化
従来のRJ45コネクターは8極のピンが必要ですが、SPEコネクターは2極のみで小型となり、基板の実装面積を大幅に削減できます。実際、SPEコネクターのサイズも大きく異なり、RJ45の約4分の1のサイズしかありません。
さらに重要なのは、従来必要だったパルストランスが不要になるという点です。サイズも大きく高価なパルストランスが不要になることで部品点数の削減とコストダウンにもつながります。
コネクターの小型化により、基板占有面積が大幅に小さくなるため、機器全体の小型化が実現できます。
ここからはSPEの技術的な特徴や活用するメリットについて詳しく解説します。
通信と電力供給を1本のケーブルで実現できる
SPEの最大の特徴は、通信と電力供給を同時に行えることです。従来のイーサネットでもPoE(Power over Ethernet)という技術で電力供給は可能でしたが、SPEではPoDL(Power over Data Line)という方式で、より効率的な電力供給が実現できます。
また、この技術の本質的なメリットとしては、電源ケーブルとしても使用できるという点があります。一般的に最も使用される電源ケーブルは基本的に2本ですが、SPEも2本で通信と電力供給の両方ができるため、電力だけに使用することも可能です。
安全で効率的に直流で送電できる
通信は無線でも光ファイバーでも実現できますが、電源をシングルペアで送るということが今までにない大きな特徴です。SPEでは直流で送電しており、感電保護やブレーカーなどの安全機能が全て規格に含まれています。
給電能力は規格上制限されており、最大60V、1.5Aという90W以下の安全な電源という規定内でサービスを行います。一般の商用電源が2000Wクラスの電力を扱うのに対し、SPEは分かりやすく例えると「水道の蛇口が小さくなった」ような状態です。このため、エコな技術であり、安全性も高いといえます。
具体的には、10BASE-T1の規格では最大クラス15で52Wまでの電力供給が可能です。これはモーターやアクチュエーターを直接駆動するには不十分ですが、多くの電子デバイスの電源としては十分な容量です。
長距離通信へ対応できる
SPEは、長距離通信に対応可能です。例えば、10Mビット/秒の規格では最大1000メートルまでの通信が可能で、これは従来のイーサネットの一般的な100メートルという制限を大きく超えるものです。
また、ケーブルが細く軽量であるため、配線スペースの削減や施工の容易性といった実用面でのメリットもあります。そのため、特に広大な工場や農園、ビル全体をカバーするようなネットワークでは、この長距離通信能力が大きなメリットとなります。
総合的なコストを削減できる
コスト面では、配線資材のコスト削減だけでなく、低電圧給電であるため電気工事の資格が不要になるなど、工事費用面でもメリットがあります。また、内線規定による制約が少なくなることで、施工の自由度が高まり、工期の短縮にもつながります。
ただ、現在(2025年12月時点)の価格については、SPEケーブルは普及前であるため、従来のLANケーブルと比較すると圧倒的に高価です。
Copyright © Ryosan Company, limited All rights reserved.
記事ランキング