図3は(a)L=50μH、(b)L=100μH、(c)はL=200μH時の出力電圧Voutの応答波形です図中の縦の破線はδが変化した時点です。図3から次のことが言えます。
表1にその結果を比較しますがインダクタンスLの増加にしがって瞬間的なVoutの低下が顕著になっていることが分ります。またピークまでの時間を1/4周期*とした場合の(1−S)の振動周波数も算出、比較してみました。この値は次回に状態平均化法の結果と比較します。
*振動を正弦波と仮定した場合0-ピークの波形は全体波形の1/4に相当します。
| L値 | 50μH | 100μH | 200μH | [参考]Vcc変動 |
|---|---|---|---|---|
| 異常振動サイクル数 | 1サイクル | 2サイクル | 3サイクル | 異常な振動はなく滑らかに上昇に転じている |
| (1−S)の推定 振動周波数 |
(τ=40μs)25KHz | (τ=80μs)12.5KHz | (τ=120μs)8.3kHz | |
| ディップ量 | −0.01mV | −0.02mV | −0.1mV | |
| 表1:δ変動時のリップル応答比較 | ||||
注目すべきはこの回路には位相補償の部品が含まれていないので電圧変換式を考えれば瞬時に上昇に転ずるはずです。
ですが実際にはδの微小増加に従って出力電圧Voutが瞬間的ですが低下する現象を起こしています。この現象は電源装置に定電圧制御のための負帰還を施した場合、瞬間的ですが正帰還として動作するので電源の安定動作を困難にさせてしまうことにつながります。
【対策】
負帰還制御の不安定さを避ける対策としてこの応答時間に相当する周波数領域で制御系が利得を持たないようにすることが汎用的に行われています。
具体的には、
(1)誤差増幅器の裸利得を必要な最小値まで低下させ、加えて
(2)不安定になる周波数域で利得を持たないように十分低いポール周波数を持つ位相補償回路を構成する。
などを行います。しかし、制御ICとして市販されているICの多くはその利得の大きさを特徴にしているので実際に高利得の制御ICを安定的に使いこなすには多くのノウハウと検討時間が必要になります。
前モデルで問題なく動作したからといってインダクタンスや平滑容量、昇圧比(入力電圧範囲)、出力電流などを変更すると思わぬ発振現象につながりますので注意が必要です。
比較・参考としてδを50%に固定して電源電圧Vccを2.5V→2.525Vに+1%の変動を与えた時の出力電圧の応答波形を図3(d)に示します。
電源電圧の変動は中央の50μsの時点で発生していますがこの条件では応答波形は滑らかに上昇に転じています。つまり(1−S)特性は電源電圧変動では発生せず、δ変動時のみに発生するということです。
前述した1式からインダクタンスLは小さい方がよい方向であるとの結論を得ましたがLについては電流不連続の下限値LMINもあります。この値LMINは2式で求めます。
電流不連続モードであれば1周期の間に電流が流れない区間があるのでδが微増しても変動を吸収できる余地があります。つまり増加した磁気エネルギーは100%出力に放出され、ここで述べた不安定現象は生じません。
具体的な値として前述の値を代入して計算してみます。2式の電流値は負荷電流Ioですから0.1Aを代入しするとLMINは31.25μHになります。
今回は前回得られた図式解法の結果をシミュレーションで確認しました。その結果、インダクタンスが大きくなるにつれて出力電圧の異常な応答(落ち込み)が顕著になることが確認できました。
次回は状態平均化法の結果と今回のシミュレーションの結果を比較して有効性を検討します。
状態平均化法については筆者も内容を理解して説明できるほど知識を持ち合わせていないのでので結果の紹介だけにとどめるつもりです。数式や専門用語が出てきた場合は用語として理解してください。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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