ただこのH8/300Hはなにしろ1990年初頭の話だからまだCADツールを利用して設計されていたが、これをVerilogで完全に書き直したのが「H8S」シリーズである。このH8Sでは内部的には32bit構成になっており、H8/300Hの2倍の性能を実現。動作周波数も50MHzまで引き上げられ、主要な命令は1cycleで実行可能になっていた。このH8Sをベースに完全32bit CPUとしたのがH8SXで、動作周波数は最大80MHzに達している。
このH8/300HとかH8SはH8/300との後方互換性を保っていたから8bit CPUとして利用する事はもちろん可能だったが、実質的には16bit CPUである。ただ既存の市場はこれで良いとして、今後の展開を考えた時にはRISCへの移行が必要ではないかという議論が当然あったらしい。背景にあるのはやはりMotorolaとの訴訟であり、独自アーキテクチャを開発するにあたっては全く新しいものを作らないとケチが付く、という教訓を日立の開発陣に残した訳だ。それもあって全く新しいアーキテクチャを、32bitで構築しようというプロジェクトが日立社内でスタートし、これが「SuperH」につながった訳だ。
ただSueprHは言ってみれば高性能CPUであり、逆に言えば既存の8/16bitはH8シリーズで良いという見切りを付けられた格好だ。それもあって製品はともかく、CPUのアーキテクチャとしてはこのH8SやH8SXが最後となった。ただ日立は長くこのH8シリーズの製品をメインテナンスしており、それはルネサス エレクトロニクスに引き継がれることになった。幸い(?)にも、ルネサス エレクトロニクスのラインアップ、つまり旧NECエレクトロニクスと旧日立、旧三菱電機のマイコン向けCPUでH8と競合するような製品はほとんど無かった事もあり、長く生き残る事になった。現在もまだ供給が続いている(新規設計には非推奨)ものもある(例:H8/3687が、既に多くの製品はDisconになってしまった。ただRochester Electronicsなどの業者が引き続き供給している他、冒頭でも述べたようにH8SのIPが正式に入手可能であり、これを利用してFPGAあるいは自身のASICにH8Sを搭載する事も可能である。まだH8は市場に生き残っているのである。
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