これまで書いてきた通り、プロセスエンジニアには、特有の難しさが求められますが、その裏側には、同じくらいの面白さがあります。プロセスエンジニアとして働く中で感じる知的な充実感を、現場の実感を交えて伝えます。
再現性のなさは確かに難しさですが、別の見方をすれば「説明できない現象が目の前に存在する」ということでもあります。同じ装置・同じ条件から異なる結果が出たとき、その差異がどこから来るのかを追いかける作業は、推理小説の謎解きに似た知的な興奮を伴います。
「変数を一つずつ固定しながら可能性を絞り込む」という思考法は、工学的な問題解決の典型ですが、プロセスエンジニアの仕事では毎日それを実践することになります。謎が解けたときの達成感は、この仕事を続ける動機として強く機能します。
不良の真因が「目に見えない何か」に起因していると疑ったとき、そこからが本当の仕事の始まりです。候補となる要因を書き出し、影響の大きさと検証のしやすさを考えながら優先順位をつけて一つずつ試していく、この仮説検証のサイクルを回すこと自体が、エンジニアとしての論理的思考力を鍛えます。
数週間かけて追いかけた問題の原因が、ある日突然「これだ」という形で見えてくる瞬間があります。そのときの感覚は、単なる仕事の達成感を超えた、思考の積み重ねが報われる体験です。
研究室での研究と製造現場の仕事で大きく異なるのが、意思決定のスピードです。研究では実験設計から論文化まで数カ月から数年をかけることもありますが、製造現場では「この仮説を今日の午後に試せるか」という粒度で動くことが少なくありません。
品質問題が続いていれば、工場のラインは毎日影響を受け続けます。そのため、完璧な確信がなくても合理的な仮説があれば実行に移し、結果から学んで次の打ち手を考えるというサイクルが自然と身につきます。行動しながら考える実行力は、製造現場でしか鍛えられないスキルの一つです。
フォトリソグラフィーでは、複数の露光層を精密に重ね合わせる「アライメント」が重要な工程です。「重ね合わせ誤差はゼロに近いほど良い」と直感的には思いがちですが、実際はそう単純ではありません。
重ね合わせ誤差をゼロに近づけることは、露光工程単体で見れば理想的に見えます。しかし、エッチングや成膜工程に起因するウエハー面内のばらつきまで含めて考えると、必ずしもそれが全体の最適解にはなりません。重ね合わせを極端に追い込んだ結果、他の工程との整合が崩れ、デバイス全体としての性能が下がることがあります。
つまり「何を最優先するか」というプロセス全体の設計思想が問われるのです。一つの指標を最大化することが正解ではなく、複数の制約条件の中で最もバランスの取れた解を探す、という思考がプロセスエンジニアリングの本質的な面白さを体現しているのです。
さて、初回となる今回は、ここまでとします。次回は、半導体プロセスエンジニアの将来性とキャリアパスについて、お話したいと思います。
鳥海五歩(とりうみ・ごほ)
千葉県生まれ。木更津工業高等専門学校電子制御工学科卒業。キヤノングループにて半導体露光装置の立ち上げ・導入支援業務を経験後、東芝セミコンダクター社にて17年間、NANDフラッシュメモリ量産工場のフォトリソグラフィ工程に従事。生産技術、歩留まり改善、量産立ち上げなどを担当し、半導体業界で20年以上の経験を有する。
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