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「理解のない上司の下で我慢する必要はない」――アナログの権威、ボブ・ピーズ氏に聞くアナログ設計

米ナショナルセミコンダクター社のスタッフ・サイエンティストのロバート(ボブ)・ピーズ氏は、同社がホームページ上に開設しているアナログ技術教育サイトの学長を務めているほか、コラムニストとして米国の電子技術専門誌に多数の寄稿がある。同社の日本法人であるナショナル セミコンダクター ジャパンが日本国内で開催したアナログ技術者向けセミナー「アナログセミナー2004」(2004年3月10〜11日)の講師として来日した際に、アナログ技術を取り巻く状況について聞いた。(聞き手:薩川 格広)

» 2004年03月12日 14時25分 公開
[薩川格広,EDN Japan]

――アナログ技術者を目指す学生が減っているようだ。

ピーズ 確かにその傾向はあると思う。難しい問題だ。一人前のアナログ技術者になるのは簡単ではない。まず大学におけるアナログ技術の教育が不十分である。日本でも米国でも同じ状況だと思うが、まったく足りていない。ただ、仕方ないともいえる。大学の教授だからといってアナログ技術のすべてを把握しているわけではないからだ。教科書に書いてあるような、ほんの一部分しか理解できていないのが現実だ。学生にアナログ技術の魅力を伝えるのは難しいだろう。結局、企業に属してから現場のエキスパート技術者によって教育を受けることになってしまう。

 優秀な学生には、ソフトウエア技術よりもアナログ技術の道を選んでほしい。挑戦する価値は大いにあるはずだ。米国ではソフトウエア技術の海外へのアウトソーシングが急激に進んでいる。ところがアナログ技術は違う。

――アナログ技術を習得するコツは。

ピーズ モノ作りを好きになることだ。エレクトロニクスの趣味に熱中している人(ホビースト)ならばアナログ技術も親しみやすく感じるだろう。ここに2人の人間がいるとしよう。2人とも学校の成績はまったく同じだ。ただし1人はホビーストで、もう1人はそうでない。どちらがアナログ技術者として成長できるか。間違いなくホビーストの方だ。

 私が駆け出しのころには、米テクトロニクス社や米ヒューレット・パッカード社(現アジレント・テクノロジー社)などのオシロスコープの回路図を入手して、それを読解することでアナログ技術を身に付けたものだ。ただ残念なことに、最近のオシロスコープは回路が複雑すぎて入門者の勉強には向かなくなってしまった。

――エレクトロニクス・メーカーによっては、アナログ技術よりもデジタル技術やソフトウエア技術を重要視する経営者もいるようだ。

ピーズ いいことじゃないか。問題があるとは思えない。例えばソフトウエア技術者を増やしてアナログ技術者を減らしたいというならばそうすればよい。われわれアナログ技術者には関係のないことだ。理解のない上司の下で我慢して働き続けることはない。もっと楽しい会社に移ればよい。私は実際に、過去にそうした経験がある。

――アナログ回路の設計にEDAツールが不可欠になっている。技術者がEDAツールに頼りすぎてしまうことはないか。

ピーズ EDAツール依存のリスクは確かにあるだろう。心配している。EDAツールに使われるのではなく、使いこなせるようになるべきだ。私のアドバイスはこうだ。EDAツールを使うのは構わない。しかしEDAツールの世界だけに閉じこもらないことだ。EDAツール上で設計した回路は必ずブレッド・ボード(試作基板)に組んで、実際の動作を観察してみる。期待した動作が得られないときこそ学習のチャンスである。EDAツール上の回路とブレッド・ボードの違いを見つけ出し、なぜその違いが生じたのかを理解する。これにじっくりと時間をかけるべきだ。そこで学んだことを次の設計に生かせばよい。

――アナログ技術セミナーの講義を行う際に、気をつけていることはあるか。

ピーズ 手描きの教材を使うことだ。ホワイトボードやOHP(over head projector)を使う。ホワイトボードだったら回路図を描いたり消したりしながら講義できる。OHPだったら透明のOHPシートを使えばよい。パワーポイントの資料を見せながら一方的にしゃべっても聴講者の理解は得られない。

Profile

ロバート(ボブ)・ピーズ(Robert A.Pease)氏

米ナショナルセミコンダクター社のスタッフ・サイエンティスト。1976年入社。電圧レギュレーターや基準電圧源、温度センサーなどの設計・開発に従事。1961年米マサチューセッツ工科大学卒。電気工学専攻。同氏の技術コラムはナショナルセミコンダクター社のホームページで閲覧できる


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