一方のDS2社は、アクセス用と家庭内用でネットワークを切り離す考えだ。同社の創始者であるVictor Dominguez氏は、「アクセスネットワークとどのように作用させるかを考えもせず、家庭用の技術を開発することは不可能だ」という。アクセス用と家庭用で同じMAC層とPHY層を使用するHPAの計画については、「PHYチャンネル、ネットワークトポロジ、ネットワークパフォーマンスのどの観点から見てもまったく理解不可能である」と語る。
DS2社は自社で使用するMAC層とPHY層の情報を明かしたがらないが、どの電力線ネットワーク規格団体でも共存層を最初に検討すべきだとDominguez氏は考えている。UPAではすでにそうした層を確立していると同氏はいう。さらに、ETSI(欧州電気通信標準化協会:www.etsi.org)が電力線通信規格の策定に取り組んでおり、IEEE P1901グループはETSIグループと連絡を取り合っている。HPAが却下した共存層を、2006年初めにはETSIグループが規定するだろうとGominguez氏は語る。IEEEのMollenkopf氏は、「解決の糸口は、汎用のシグナリングプロトコルにある」と述べている。
規格があってもなくても、BPLの動きは今後益々活発になってくるだろう。もう一つの業界グループ、United Power Line Councilは、BPL導入マップをWebサイトで公開しており、北米でのユーザー数は一部が試用ユーザーであることを考えても驚異的な数字を示している。そしてヨーロッパはその数字をはるかに上回っている。参加電力会社には、Consolidated Edison社やDuke Power社といった実績のある企業も含まれている。さらにEarthlink社をはじめとするISP(internet service providers)も、インターネットバックボーンを提供するパートナー契約を結びつつある。
しかしBPLの展開には世界中のハム愛好家が抗議している。一部のBPLでハムとの干渉が発生しているためだ。BPLシステムが、無線通信に干渉するエネルギーを放射することは言うまでもない。多くの地域で見られる架空電力線は保護されておらず、とりわけMV線でデータを伝送している場合にはそれが顕著だ。BPL業界には、ハム愛好家を、不満を言うことしか知らないおかしな人だと切り捨てる者もいる。そして、それら「おかしな人」のなかには、BPLが緊急通信の邪魔をすることで大災害が起きると主張する者もいれば、宣伝文句にあるような音声・データ・動画配信の世界を実現できるような技術ではないと指摘する者もいる。幸い、どちらの側にも道理をわきまえた人たちはいる。
ハム愛好家たちを弁護しているのが米アマチュア無線協会(National Association for Amateur Radio)だ。このグループはまだ、旧グループ(www.arrl.org)のARRL(American Radio Relay League)という名称を使っている。ARRL研究所所長のHd Hare氏はBPLシステムの試験に携わり、HPA陣営やMotorola社をはじめとする企業と協力してBPLの運用に取り組んでいる。「私の目標はBPLを成功させることだ。BPLシステムのすべてが干渉をひき起こすわけではない」とHare氏はいう。
BPLシステムの運用には、無認可サービスについて規定したFCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)規則パート15が適用される。基本的にこの規則では、そうした無認可サービスが他の認可無線サービスに干渉してはならないことになっている。特に、緊急サービス、警察、軍事などに割り当てられている周波数の使用が固く禁じられている。2004年、FCCはBPLシステムについての指針を発表した。その詳しい内容については、Conformity誌に掲載されているFCC規則・指令に関する論評を参照されたい*1)。
Hare氏によると、DS2社もHome Plugチップベンダーも干渉を最小限に抑えるべく努力しているようだ。チップメーカーは干渉をなくすため、ハムに使用される帯域からBPLのシグナルを遮断する「ノッチ」を実装している。「ノッチ」という言葉は通常はアナログフィルタに使われるため、やや誤解を招くかもしれない。OFDMシステムでは、BPLベンダーは単純に、ハムが使用する周波数帯域内のサブキャリアを使用しない方法をとっている。
Intellon社のHomePlugチップにはノッチが実装されている。DS2社は、ユーザーが動的に再設定できるプログラマブルなノッチを提供している。HomePlugまたはDS2社のチップを搭載したシステムは比較的静かだとHare氏はいう。ノッチが付いている場合、架空電力線から発生するノイズレベルは静音より15dBほど高い程度だ。そのノイズは地中の電力線では測定できないだろう。
BPL業界の多くの関係者は、ノッチ付きシステムを静かだと考えている。しかしハム愛好家には、干渉の問題で悩んできた長い歴史がある。テレビに干渉すると隣人から苦情を言われることが多いのだ。Hare氏が指摘するように、測定される干渉値が合法であろうとなかろうと、乱れたテレビ画像を見せられる人たちが不満を抱いていることに変わりはない。だからハム愛好家たちは15dBのノイズさえなくして欲しいと考える。
Hare氏は、Motorola社が自社の電力ラインLV機器で干渉をなくすことに成功しているという。Motorola社が市販のHomePlugモデムを利用せずに自社製の電力線モデムを提供している理由の一つが干渉問題なのだ。Motorola社のIllman氏は、一部のキャリアがOFDMシステムから撤退したとはいえ、相互変調が依然としてその帯域内のノイズフロアの原因となっていると指摘する。そのため、Motorola社は自社のモデムにフィルタを追加し、それらの周波数を遮断することにした。結果、干渉波を放射することも、干渉波を受けつけることもないシステムができあがった。Hare氏はMotorola社のシステムを丹念に試験して、これが事実であることを確認した。
とはいっても、ARRLの最大のターゲットは、わずかなノイズしか出さないノッチ付きシステムではなく、ノッチがないシステムなのだ。Hare氏は、DS2方式を採用している一部のサービスプロバイダがプログラマブルノッチに対応していないと指摘する。また、Main. netベースのシステムにも、問題のある周波数をカットできる機能がなく、何らかの方法でフィルタを手動設定しなくてはならないものがあるようだ。
バージニア州マナサス市はMain.net技術に基づくBPLを展開しており、現地のハム愛好家によればノイズが大きいという。Tarnovsky氏は、現地のハム愛好家グループで市内を調査した結果、ハムの信号強度測定器がS9 +20〜40dBの値を示したという。こうした測定器はS0からS9の等級を使用しており、S3〜S5はノイズの少ない環境だと考えられている。S9を超える値は等級の範囲にない。
マナサス市のディプロイメントには基本的に初代のMain.netチップが採用されており、問題の周波数をカットするようにプログラムすることはできないとTarnovsky氏はいう。Main.netはハム愛好家たちと話し合うためにエンジニアさえ派遣した。Tarnovsky氏によると、ComTek社はノッチの導入を約束したが、ComTek社の従業員は会社がまだそうしていないことを認めている。ComTek社の経営陣は、この問題に関するEDN誌の問い合わせに答えてくれなかった。
2005年10月中旬、ARRLはFCCに対し、BPLシステムの使用中止をマナサス市に指示するよう正式に申請した。プレス発表時にはARRLはその回答を待っている状態だった。Tarnovsky氏は、マナサス市のBPLシステムにはノイズをフィルタリングする機能がなく、まったく信頼性に欠けると主張する。市内を移動しながら通信していたハム愛好家がBPLシステムの一部を停止させ、リセットする必要があったというのだ。マナサス市民はこれからユニークな方法でインターネットに接続できると述べたComTek社のFergus氏の言葉はそういう意味だったのだろうか?
※1…Ramie, Jerry, “Review of FCC Report & Order 04-245 on Broadband Over Power Lines(BPL),” Conformity magazine, August 2005, www.conformity.com/0508/0508review.html.
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