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米国で始まった電力線ブロードバンド・サービスデータが正弦波に乗る(4/4 ページ)

» 2006年02月01日 00時00分 公開
[Maury Wright,EDN]
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インフラに依存するBPLネットワーク

 BPL採用の成功は、依然としてある種の高速バックホールネットワーク(中電圧から低電圧線まで)に依存している。LV(低電圧)BPLネットワークでは、トランスから家庭までの電力線のみがデータストリームを伝送する。中電圧システムでは、データを伝送する電力線の長さがもっと伸びるが、そのようなシステムでもどこかでテレコム会社のインフラにリンクしなくてはならない。

 バージニア州マナサス市が過去5年間にわたって整備してきた光ファイバ網が、大きな話題になった市全域のBPLの採用を支えている。同市のBPLネットワークは中電圧と低電圧の両方の電力線を使って、変電所から顧客にデータを伝送しているのだ。

 一方でMotorola社はLVのみのBPLを推進している。LVシステムでは、サービスエリア内に敷設しなくてはならない光ファイバの距離が長くなる。しかしMotorola社は自社のCanopyという固定ワイヤレスソリューションでバックホール問題を解決している。Canopyは無認可周波数帯域やポイントツーポイント、あるいはポイントツーマルチポイントのトポロジで使用できる。このサービスはWiMaxと似ており、Motorola社は今では仕様が安定しているWiMaxの規格にCanopyを合わせると思われる。電力ラインLVシステムでは、電柱のトランスに取り付けられ、LV BPLブリッジの役割を果たすCanopyアンテナとレシーバが使われる。

BPLの経済性を考える

 BPL(broadband over power line)を取り巻く議論のほとんどは技術的なものだが、今さら新しいブロードバンド接続方式が必要なのかという疑問があってもおかしくない。事実、WiMaxのような固定ワイヤレス方式についても同じ疑問の声がある。しかし、WiMax陣営はDSLやケーブルの既存市場が存在しない発展途上国への展開を狙うこともできる。おそらくBPLもこれらの地域で展開されるだろうが、発展途上国の電力網はBPLに利用できるだけの信頼性がない。それならば、BPLはどれだけのコストをかけて、どこで勝負しようというのだろうか?

 長期的に見れば、BPLの成功はスマートパワーグリッドで何を実現できるのかにかかっている。電力メーターの自動読み取りだけでも電力会社は莫大なコストを浮かすことができるし、その分インターネットサービスに費用を投じることができるだろう。カリフォルニアなど夏になると電力不足が問題になる地域では、顧客の電化製品を遠隔制御することができれば大幅なコスト削減につながるかもしれない。

 新進ICベンダー、米Arkados社のOleg Logvinov社長兼CEOは、「BPLそれ自体が単独の技術として成功するということには懐疑的だ」と述べている。しかし、電力業界出身のLogvinov氏は、BPLが成功する理由をいくつでも挙げることができる。電力会社は電力線ネットワークを使って予防保守を行い、電力網のどこで配電ロスが発生しているのかをより早く把握できるようになるだろうと彼は言う。最終的には無効電力を管理してエネルギーを節約できるようになるだろう。「配電を最適化するだけで10%以上の節約になる」とLogvinov氏は語る。

 他のプレーヤは、インターネットサービスだけでもBPLには収益性があると考えている。Motorola社ビジネスディベロップメントマネジャーのMary Ashe氏は、「純粋に収益の観点から見ても、機器のコストから見ても、費用対効果は非常に大きい」と言う。

 例として挙げられる主要BPLサービスには妥当な価格が設定されているように思える。バージニア州マナサス市全域をカバーしているComTek社のBPLサービスは、DSLやケーブルと接戦を繰り広げるだろう。ComTek社はサービスの月額利用料を29.95米ドルに設定している。キャリアを乗り換えて長期契約を結ぶ気があるなら、もっと安いDSLサービスやケーブルサービスを見つけられるかもしれないが、それにしてもこのComTek社の価格は魅力的である。同社のBPLサービスはすでに1万2500世帯、2500社に導入されており、現時点での有料ユーザー数は700件に上っている。Current Communications社のシンシナティ市でのサービス利用料は月額27米ドルだ。

 ComTek社のケースはインターネットサービスだけではない。マナサス市の電力会社は、信号の制御、変電所遠隔監視カメラの接続、停電の自動検知にスマートグリッドを利用している。同市では電力メーターの自動読み取りにも乗り出そうとしている。

 しかし、BPLはケーブルやDSLにはない問題に直面している。BPLシステムにはトランス部分にブリッジ/ルーターが必要である。一般的なトランスでサービスを提供できるのはせいぜい6〜8世帯だ。インターネットサービスを利用するのが一世帯だけなら、ブリッジは高くつく。ケーブルやDSLだと、装置の利用範囲をそんなに狭める必要がない。実際、ケーブルやDSLのサービスプロバイダは、ユーザー数が少なくて投資分を回収できないと判断すればサービスを提供しない。おそらく、BPLが囲い込めるのはこうしたサービスを受けられないユーザーだろう。しかし、他のブロードバンドプレーヤが手を出せないような顧客にサービスを提供できるほどの資金的余裕がBPLサービスプロバイダにあるだろうか?


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