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SPICEを効かせるBaker's Best

» 2006年12月01日 00時00分 公開
[Bonnie Baker,EDN]

 アナログであれデジタルであれ、回路設計においてコンピュータシミュレーションは大変重要である。アナログ回路であればSPICE、ディジタル回路であればIBIS(I/O buffer information specification)などによるシミュレーションを活用することで、開発初期に生じやすい誤りを減らし、開発期間の短縮といった効果を得ることができる。

 シミュレータを正確に使用すれば、回路の間違いや勘違いを物作りの前に検出可能である。シミュレータを正確に使用するために必要なことは2つある。1つは、シミュレーションの開始に先立って、対象となる回路に期待する動作を明確にしておくことだ。もう1つは、シミュレーションの完了後、その結果について検証を行った上で物作りに着手することである。

 シミュレータはテスト時のトラブルシューティングにも活用できる。また、「もし、○○○ならばどうなるか」といったシナリオに基づいてアイデアを試してみるということも容易に行える。

 パソコン用のシミュレーションソフトでは、解析結果が種々のグラフィックスを組み合わせて分かりやすく出力される。そうしたソフトは、DC動作点、小信号ゲイン、時間軸上の動作、DCスイープなどの解析機能を備えている。また、高調波歪(ひずみ)、ノイズ電力、ゲイン感度、あるいは極/零点探索といったより高度な解析にも役立つ。SPICEやIBISは、こうした基本的な機能を多数備えている。

 さらに、SPICEに用意されているモンテカルロ解析手法やワーストケース解析手法をうまく使用すれば、製品の歩留り予測なども行える。開発プロジェクトを立ち上げる際、評価用の試作回路を用意するのに多大な費用と時間を要するおそれがあるが、シミュレーションを活用することで、製品の商品化を加速できる可能性がある。

 ただし、シミュレーションについては注意すべきことがある。アナログ/デジタル回路を適切かつ効果的に評価するには、シミュレーション用のモデル/マクロモデルが十分に正確でなければならない。

 ここで重要なのは「十分に」というところである。モデルは、回路の細部にこだわりすぎることなく、デバイスの実際の動作を模倣できなければならない。細部の条件が多すぎると、計算の収束性の面で問題が生じたり、シミュレーション時間が多大になったりする。かといって、細部の条件が粗すぎると、回路動作の込み入った部分が結果に現われないおそれがある。たとえ完全な回路モデル/適切なマクロモデルを使ったとしても、シミュレーションが回路動作を正確に反映しないケースもあり得る。SPICEであれIBISであれ、シミュレーションは回路動作を表現する数式群を集合化したものであり、ちょっとしたことで実回路と結果が異なる可能性もあるのだ。

 中には、「シミュレーションは役に立たない」という人もいるかもしれない。しかし、そうした人は何らかの事情で、シミュレータの実力を誤解させられたのである。確かに、SPICEを誤って使用した場合、混乱を招くことになる。シミュレータに限らず、ツールの良さは、それを使いこなす人のレベルに応じて決まるものだ。

 シミュレーションを始める前に、最終結果がどのようになるかをよく見通しておくことが肝心である。シミュレーションから何かを洞察できたとすれば、それは“特別手当”だと考えるべきだ。うまくいけば、SPICEシミュレーションによって、それまで気づかなかった問題点を抽出できることもあろう。

 次のようないくつかの疑問を持つかもしれない。このモデルの正確さの程度はどれくらいだろうか。このモデルならば必要な特性をシミュレーションできるだろうか。このデバイスのAC特性を正確に反映できるだろうか。このモデルでデバイスの温度特性を正確に模倣できるのだろうか。このデバイスの標準的な歪特性が得られるだろうか。プリント基板や素子の浮遊容量を正確に含めることができただろうか。

 こうした疑問に対する答えはただ1つ、先述したように、シミュレーションの開始に先立って、その回路が実際にどのように動作するのかという感触を持っておくことである。そして、シミュレーション結果を鵜呑みにすることなく、厳しく見つめ直してみよう。人間による優れた技術的な判断に取って代わるものはないのである。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com


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