テレビチューナは非常に広い帯域をカバーしなければならない。例えば、携帯電話なら数十メガヘルツで済むのに対し、テレビチューナは1GHzもの帯域に対応する必要がある。電波の強度や画像の品質が異なる多種多様な信号を扱わなければならないという問題もある。
テレビ放送では電波や信号の強度が、受信状況によってさまざまである。送信機からの距離(直接受信の場合)やケーブル中継器からの距離(CATVシステムの場合)によって、チャンネルごとに異なるだけでなく、環境的な要因やケーブルに接続された受信機の台数などによっても違う。強度の異なる数千もの信号が重なっていることも珍しくない。
テレビチューナは、こうした多様な電波や信号の強度に対応し、かつ、後段のテレビ信号処理回路に対して線形出力を確実に生成しなければならない。受信信号の整合性に影響を与えるほかの要因として、信号が伝播する際の環境的な影響や建築物などでの反射によるマルチパスの問題がある。
これまでのテレビチューナでは、要求される感度やダイナミックレンジを実現するため、シールドされたCAN(キャン)チューナが長い間使われてきた。しかし、感度をさらに高めるためにはチューナごとに調整が必要だった。加えて国や放送方式、使用する周波数帯ごとに仕様が異なるため、チューナメーカーは20〜30種類ものチューナを作り分けてきた。
CANチューナと同じ機能をプログラマブルなシリコンチップで実現できれば、チップのプログラムを変更するだけで仕様の異なる複数のチューナを作り分けることができ、感度を高めるための調整も不要となる。しかし、これまではシリコンチューナにも課題はあった。例えば、数年前に登場した携帯電話機向けのシリコンチューナは、CANチューナに比べ十分なダイナミックレンジが得られなかった。
こうした中で、筆者らのXceive社は高品位なテレビ画像と音声を再生するのに十分なダイナミックレンジを備えたシリコンチューナを開発した(図1)。以下では、同製品を例にとり、シリコンチューナのメリットについて説明する。
シリコンチューナ「XC3028」は、米国のATSC(Advanced Television Systems Committee)モードで90dBのダイナミックレンジを持つ。この性能であれば高品位放送の信号も十分に扱うことができる。
ダイナミックレンジを広くするには、受信機の感度が高く、かつ、フロントエンドが非常に強い入力信号にも耐えられる必要がある。XC3028では内蔵したDSPやアクティブフィルタの設計により、強度が高く局所的な信号により生じる過負荷に干渉されない感度を実現した。このため外部にフィルタを追加する必要がない。ATSC信号の受信に対し、−83dBm以上の優れた感度が実現されている。 今回開発したシリコンチューナはプログラムの書き換えが可能なDSPを集積している。このため、プログラムを変更すれば世界中のあらゆる放送規格に1チップで対応できる。小型であるため、CANチューナよりも小さいスペースに複数のチューナを実装でき、PIP(picture in picture)機能や複数の番組の同時録画などが可能となる。
このほかにもシリコンチューナがCANチューナより優位な点としては以下のものがある。
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