ネットワークの構築に当たっては、ノードの構成について検討する必要がある。ワイヤレスセンサーネットワークにおいて、ノードの配置場所が固定されているものを「静的な構成」と呼ぶ。静的な構成では、ネットワークの全領域を網羅するような冗長なパスが構成できるようにノードを配置していく。そのため、本質的にアドホックなネットワークとなる。また、アドホックなネットワークでは、高度な経路選択手法が必要となる場合が多い。にもかかわらず、その経路選択手法は、システムのライフタイムを通して適用可能なものとして、一度きりの開発で実現しなければならない。
静的な構成と対になるものが「動的な構成」である。動的な構成ではノードの位置が固定されておらず、「最も近いノード」がそのときどきで異なる。この手法の例としては、家畜の群れを監視するシステムが挙げられる。例えば、個々の牛の健康状態を遠隔地から監視するといったものである。その場合、どの時間においても、ある牛がほかの牛の横を通りすぎて歩き回る可能性があるので、ネットワークの経路選択をその時点の状況に応じて変更しなければならない。その管理にはメッセージ通信が必要となるため、ネットワークのトラフィックが増加し、電池の寿命が短くなる。
動的な構成では、各センサーの位置を追跡する必要がある。そのため、問題はさらに複雑になる。上記の例でいうと、ネットワークは個々の牛の健康状態の情報取得に加え、その位置をも追跡することになる。それぞれの牛の位置の追跡には、ノードの信号強度を調べるという簡単な方法が利用できる。このアルゴリズムは比較的単純で、距離による信号劣化の度合いを仮定し、三角測量の要領でおよその位置を求めるというものだ。牧場は比較的障害物のない環境であり、信号の反射については考慮しなくてもよい。そのため、この手法が利用可能であろう。
しかし、ワイヤレスセンサーネットワークにより、火災が発生したビル内の消防士の身体状態と位置を追跡する場合はどうだろうか。要求されるデータは牛の例と同様だが、環境要因の違いが実現方法に影響を与えるはずだ。信号はビル内で、ガラス、コンクリート、鋼鉄などさまざまな材質を伝わる可能性がある。従って、この場合には反射を無視することはできず、単純な信号強度を用いた手法を適用するわけにはいかない。なぜなら、どのノードも複数の異なる位置に存在する可能性があり、その際発生するデータ競合を解決して1つに絞っていく処理は、管理できないほど膨大なものとなるからである。
上述したケースでは、GPS(global positioning system:全地球測位システム)を利用するのが最適だ。ただし、GPSのチップセットを利用すると消費電力はかなり増大するので注意が必要である。
ワイヤレスセンサーネットワークにおいては、干渉についても考慮しなければならない。ワイヤレスセンサーが本当にユビキタスなものとなるなら、複数のネットワークシステムが互いに干渉するはずである。例えば、ホームオートメーションシステムが、消防士監視システムと干渉を起こしてしまう可能性があるといった具合だ。このことを考慮すると、各システムはそれぞれに固有の識別子を交換し、それを保持しなければならない。
ネットワークの構成および経路選択手法としてどのような方法を採用するにせよ、将来的には何百、何千、あるいは何百万ものノードに対応できるようにしておかなければならない。ムーアの法則から分かるように、同じ周波数のプロセッサの価格は時がたてば低下する。そのこともあり、ワイヤレスセンサーネットワークでは、より低価格なノードに置き換えていくことが必要となるだろう。各ノードをプログラム可能な個別の要素として構築しようという考えが、コスト面からもますます促進されていくはずだ。
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