高速道路上のある1点に置いた交通情報モニターを考えてみよう。そのモニターでは、上り方向か下り方向かの区別はせずに、トータルの交通量のみを検知するものとする。当然のことながら、そのモニターで得られる情報はごく限られたものである。
道路と同じように、電気信号の伝送路にも両方向のトラフィックがある。伝送路のある1点に接続された電圧計測用のプローブは、上記の交通量モニターと同様なものとなる。すなわち、トータルの電圧波形は計測できるが、移動方向ごとの波形の情報はそのままでは得られないのである。
図1に示したピンク色の波形は、その下の回路において、コンデンサC3上端で計測したものだ(前回の記事も参照されたい)。この波形には、まず立ち上がり時間が200ps以上のステップ状変化があり、その後方の点Aに負方向のバンプ(へこみ)がある。
このバンプの原因をシミュレーションを利用して解明するために、実際には存在しない仮想的な抵抗R0(値は0Ω)を回路図中に配置する。加えて、この抵抗に付随するすべての寄生要素を極力小さな値で配置する。その上で、シミュレーションにより、R0の位置における電圧V0と、この抵抗に流れる電流I0を求める。次に、図1に示す式によって前進波の電圧VFと反射波の電圧VRを計算する。これら2つの波形を加算したものがC3における計測波形である。図中の青色の線で示しているのが前進波であり、これは変形のない理想的な形状を成している。そして負方向のバンプは、反射波(紫色の線)だけに観測される。このことから、バンプはC3の右側にある何かによる反射に起因するものだと判断することができるのである。
続いて、反射波に観測されるバンプの形状とタイミングについて検討しよう。このバンプが発生している時間幅は信号の立ち上がり時間と同等である。このことから、この反射が、ある局所から発生したものであると推測できよう。バンプの中心は、入力信号の立ち上がりの中間点から約400psの位置にある。この400psという時間は、信号が経路を往復することにより反射波に現われる遅れ分に相当する。従って、反射源となる不連続点は、R0の位置から200psに相当する距離だけ下ったところにあると推定できる。該当個所の近傍で顕著に不連続といえる個所は、受信回路の負荷容量C4だけだ。そこでC4を回路から取り除くと、バンプがなくなり、このバンプがC4に起因して発生したものだと確認できる。さらに、反射波VRをよく見ると、このバンプよりも小さい負方向のバンプが存在することが分かる(図のB点)。これは入力信号のエッジの位置にあり、C3での反射に起因するものだと判断できる。
今回説明した手法になじみがないという方は、子供のころを思い出していただきたい。誰もが、母親から「左右をよく見なさい」と教わっているはずだ。
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタル・エンジニアを対象にしたテクニカル・ワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。 www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.