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HD映像技術の「今」を俯瞰する(2/3 ページ)

» 2007年05月01日 00時00分 公開
[Jeremiah Golston(米Texas Instruments社),Gene Frantz(米Texas Instruments社),EDN]

視覚に影響を与える要因

 開発者は、HDシステムの設計に取り組む前に、さまざまなディスプレイ要件を理解しておいたほうがよい。その際、注意が必要なのは、技術的な要件と同じくらいに、知覚的な要件が重要だということである。つまり、人間の視覚を意識し、エンドユーザーにどのようにシステムを利用してもらえば、表示フォーマットの差以上に大きな違いを体感してもらえるのかということを考えなければならない。

 まず、HDの効果は大きなディスプレイでしか知覚できない。40インチ未満のディスプレイでは高解像度ならではの知覚的な効果が十分に得られないといえる。例えば、携帯電話機のディスプレイをHDにしても無意味であることは明らかだ。あるいは、車の後部座席で小さなディスプレイを見ている人たちが、HDとSDの違いに気付くことはないだろう。

 2つ目は、高解像度のディスプレイよりも、サラウンド機能を伴う音声システムのほうがはるかに人に与える効果が大きいということだ。言い換えれば、音声が素晴らしければ、それほど大したことのない映像でも良く見える。反対に音声が悪ければ、どれほど映像が素晴らしくても効果は半減する。メーカーは映像と同じくらい、あるいはそれ以上に、音声システムの質的向上を図ることを考えるべきだろう。

 視覚に影響を与える3つ目の要因はコーデックによるデータの圧縮手法である。通常のシステムは、デジタル映像データを圧縮することにより、伝送に必要となる帯域幅を下げる。SDTV放送フォーマットで圧縮されていない状態では、必要なビットレートは124Mビット/秒を超え、1080i60では750Mビット/秒近くにもなる。

 圧縮に大きく関連する要因の1つにディスクメディアがある。単層のDVDには約4.7Gバイトのデータを格納できる。ショートクリップの非圧縮映像であればこれでも十分であろう。しかし、より大容量のデータを扱う場合、それでは不十分だ。2層のHD DVD(high definition digital versatile disc)とBlu-ray Discの容量はそれぞれ30Gバイトと50Gバイトだが、それでも何時間もの映像コンテンツを記録するにはかなりの圧縮が必要となる。

 ビデオ圧縮規格としてすでに確立され、最も広く利用されているMPEG-2 Main Profileは、4:2:0のカラーサンプリングにより、約30:1〜50:1の圧縮率で高品質な映像を実現する。このおよそ倍の圧縮率を実現するものに、MPEG-4 AVC(advanced video coding)/MPEG-4 Part 10としても知られているH.264がある。ビデオ放送/レコーディング業界は今後数年間でこのH.264に移行するだろう。

 ITU(International Telecommunications Union)/MPEG規格はどれも損失が大きいため、伸張/再生される映像は圧縮前の映像よりも精細度が劣る。しかし映像には動きがあることに加え、これらの規格は人がどのように映像を知覚するのかということについての詳細な研究に基づいて策定されている。そのため、これらの規格に基づく技術によって精細度の低下はうまく隠され、通常はその低さが気付かれることはない。ただし、H.264 High Pro-fileで約60:1の圧縮率を超えると、映像の粗さが目立つようになる。とはいえ、そうした映像ですらHDディスプレイでははるかにマシに見える。

必要なシステムリソース

 1080i60の非圧縮HD映像には、非圧縮SD映像に必要となるデータの6倍のデータを要する。また、720p60では5.3倍のデータが必要となる。普通に考えれば、HDにはSDの6倍の処理スループットとメモリー容量が必要だということになる。さらに、最先端のコーデックは、より多くのメモリー容量と処理パワーを駆使して高品位なデータ圧縮を実現する。そのため、それに伴ってシステムの要件も一層厳しくなる。

 例えば、参照フレームデータにMPEG- 4 Simple Profile/480i30のSDデコーダを使う場合、メモリー要件は約500Kバイトである。それに対し、1080i60のHD映像に使われるH.264 High Profileデコーダの最低メモリー要件は約9Mバイトと、18倍にもなる。これだけ必要なメモリー容量が増える理由は、HDの解像度が高いことだけではない。MPEG-4 Simple Profileではフレーム予測アルゴリズムに1フレームしか使用しないが、H.264 Level 4.0 High Profileでは5フレームも使用される。そのため、HDデコーディングでは、プロセッサが内部参照フレームバッファ用に従来の18倍のメモリーを使用できるようになっていなくてはならないのだ(図1)。さらに、ディスプレイのバッファリングや、ストリームバッファ、テーブルなどほかのデコーダ機能に使用されるメモリーも確保しておく必要がある。

図1 必要なメモリー容量の例 図1 必要なメモリー容量の例 最先端のビデオコーデックを使って圧縮したHD映像データの伸張には、SD映像データを伸張するときよりもはるかに多くのメモリー容量が必要となる。

 表2は、3つの代表的なHDコーデックアプリケーションの一般的なシステム要件を表している。1つ目のHDTV放送はビットレートが最も高く、MPEG-2またはH.264の圧縮方式でリアルタイム動作する。HDTVデータを圧縮して伝送する放送システムには、数ギガバイトのメモリーに支えられた数多くの高速DSP/FPGAが必要となる。

表2各種NVMの比較 表2各種NVMの比較

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