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どうする?SoCのオーディオ品質課題は山積み、出口は見えず (1/5 ページ)

マルチメディア機器の映像品質が向上するに連れ、オーディオ品質に対する要求もより高まってきた。もともと、大規模なシステムLSIにオーディオ機能を統合するのは音質その他の理由から困難だったが、従来の評価/テストでは検出できない新たな問題も顕在化してきている。開発者の前に立ちふさがる課題とは何なのか。

» 2007年06月01日 00時00分 公開
[Ron Wilson,EDN]

音質に対する要求の高まり

 HD(high definition:高品位)映像分野がSoC(system on chip)の大きなターゲットになりつつあるというのは、誰もが認めるところだ。セットトップボックスやテレビ受像機、ディスクプレーヤ用のSoCはもちろん、近い将来には携帯型メディアプレーヤ用のSoCにもHD対応機能が搭載される見込みである。しかしこの映像分野の進歩の裏側で、オーディオに関する問題がひそかに生じ始めている。

 その問題とは、いかに高精度のオーディオ回路を設計するかということではない。実際、アナログICの設計者は、ディスクリート部品を用いた設計が全盛だった時代よりも、はるかに高度なD-Aコンバータやアンプ回路を生み出している。

 問題は、製品の特性評価、および製造工程における出荷テストにある。オーディオ品質、すなわち音質は、特性評価においても定量化することが非常に難しく、製造工程におけるテスト環境での検証は困難を極める。多くのアナログ設計者は音質のすべてを保証するのは「ほぼ不可能」だと指摘しているし、オーディオ愛好家であれば「絶対に不可能」だと主張するだろう。現在、SoCの設計者はこうした課題に取り組んだ経験を持つオーディオLSI設計者とともに、この新しい問題について吟味している段階にある。

 オーディオ機能の評価/テストに新しい課題をもたらす要因の1つは、高い音質を実現するために、音源となるデジタルデータの量が増加していることである。ただし、データ量が増えていることが本質的な問題なのではない。その背景にある、消費者の要求の高まりが問題なのだ。

 MP3プレーヤをCDプレーヤなどと比較して評価したユーザーは、ほとんどの場合、MP3プレーヤのほうが音質が悪いという判断を下す。米 National Semiconductor社でオーディオ製品担当マーケティングディレクタを務めるGary Adrig氏は、「MP3プレーヤの音質は、音源となるデータの質ではなく、高性能ヘッドホンの出現によって改善されてきた」と語る。そして、ヘッドホンの性能が向上するに連れ、「顧客は、以前はそれほど要求の高くなかった製品に対しても、100dBのS/N比(信号対雑音比)や0.05%のTHD(全高調波歪率)を求めるようになった」(Adrig氏)という。

 MP3のように音質の面での損失を伴う音源データを使うオーディオ機器の根底には、アナログ回路の問題ではなく、コーデックの問題が存在する。コンテンツベンダーが圧縮比を低く抑えてビットレートを上げるに連れ、チップの設計者は、ハードウエアのデータパスの幅をさらに広げ、より高度なD-Aコンバータを使用しなければならなくなった。MP3には原理的な限界があるのにもかかわらず、音質に対する消費者からの高い要求を満たすために、これまで以上の取り組みを行わなければならないのである。

 HD対応機器のオーディオスペックは、16ビットで44.1キロサンプル/秒というCDのレベルを超え、24ビットで192キロサンプル/秒の DVD-Audioのレベルにまで達した。そうしたハイエンドの製品を購入する人々は、もちろんその音質についても高い要求を持つようになる。米 Texas Instruments社(以下、TI社)のマーケティングマネジャを務めるKevin Belnap氏は、「ホームシアター市場は、すでにそのような状況にある。ノイズと高調波歪率が最小レベルに達すると、今度は音場や、『真空管オーディオのように』といった聴き手の好みの問題が重要になってくる」と語る。

 こうした要求はとどまることがない。セットトップボックスやコンバータボックス、HD対応のテレビセット、そして携帯機器のユーザーまでもが、従来以上に音質の良いオーディオを求めるようになる。このような流れは、あるプロフェッショナルオーディオ開発者の体験からも見てとれる。スタジオモニタースピーカを開発するカナダのTC Applied Technologies社(以下、TC社)でCEO(最高経営責任者)を務めるMorten Lave氏は、MP3に関する自身の経験を次のように語った。

 「『iPod』を使ってみたが、デフォルトの設定のままだと、シンバルの音がひどすぎた。そこでビットレートを192キロビット/秒に上げてみた。それによって安いヘッドホンで聴いているぐらいの音質にはなったが、ホームオーディオシステムに接続してみると、圧縮によるアーティファクト(音声の汚れ)がまだはっきりと聞きとれた」。

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