Intel社は、Wi-Fiと3G携帯ネットワークに大きな差があることは認めるが、Nardone氏が述べるように、ユーザーにWiMAXか3Gかの選択はさせたくないとしている。WiMAXは3Gのようにはエリアが広くないからだ。それでは2つではなく3つの無線通信に対応させてはどうか。コストの問題は考慮しなければならないが、これらの無線システムはMini PCIカードを用いてノート型パソコンに統合することができる。ノート型パソコンは通常、2つのMini PCIスロットを備えている。そこでIntel社は、単一のチップセットにWi-FiとWiMAXを統合し、最終的にはすべてのノート型パソコンにこのチップセットを搭載したいと考えている。
実際にIntel社は、2006年12月に香港で開催された「3G World Congress」において、3つのネットワークをサポートするノート型パソコンを披露した。そのノート型パソコンには、Wi-FiとWiMAXの両方をサポートするベースバンドチップと、2.3GHz〜2.7GHz、3.5GHz、および3.8GHzの帯域でWiMAXをサポートする周波数可変の無線システムを含むIntel社の新しいチップセット「WiMAX Connection 2300」が搭載されていた。これにより、世界各地で展開されているMobile WiMAXの帯域に対応できる。
Wi-FiもWiMAXも変調方式としてOFDMを利用するため、統合が比較的容易である。さらにこれらの技術は、類似の帯域で動作し、アンテナを共有することもできる。Intel社はこの新しいチップセットの設計を完了しており、2007年末に出荷予定であるとしている。しかしまだ価格は設定していない。実際のところIntel社は、Sprint Nextel社が予定している2008年のWiMAXサービス開始に向けて準備を整えておけばよいという状態である。
米Atheros Communications社、米Broadcom社、米Marvell Technology Group社など、Wi-Fiに注力するほかの主要な企業は、WiMAXに関する計画を明らかにしていない。しかしIntel社が主張するようにWi-FiからWiMAXへの移行が容易なのであれば、Wi-Fiチップメーカーも参入してくることが予想される。ほかの主要なWiMAXベースバンドチップベンダーとしては、富士通、仏SEQUANS Communications社、英picoChip Designs社、Wavesat社などがある。
米国では間違いなくWiMAXが普及するのだろうか。簡単にそう結論付けることはできない。より低価格で低消費電力のチップを供給できるか、Sprint Nextel社がネットワークを構築できるか、競合技術はどうかなど、さまざまな問題が存在する(別掲記事『ポータブル機器が要求する低消費電力チップ』を参照)。
QUALCOMM社は早い段階から、3GPP(third generation partnership project)が主導するGSMと、3GPP2が主導するCDMAの両方における最新技術が、WiMAXよりもモバイルブロードバンドの要件に適していると主張していた。米QUALCOMM CDMA Technologies社の製品管理担当シニアディレクタであるPeter Carson氏は、「3GPPのHSPA1(high speed packet access plus)技術は、近い将来28メガビット/ 秒の下り通信速度を提供するだろう」と指摘している。HSPA1は、HSDPA(high speed downlink packet access)とHSUPA(high speed uplink packet access)を組み合わせ、拡張したものである。さらにCarson氏は、「CDMA EV-DO(evolution data optimized)Revision Aでは、Mobile WiMAXよりもチャンネル当たりのデータ転送速度を高めることができるだろう」と主張している。
WiMAXの支持者にはQUALCOMM社の主張を認める者はいない。実際WiMAX Forumのウェブサイトには、OFDMのほうがCDMAよりも帯域幅の面で優位であることを示す詳細な比較分析結果が示されている。両方の技術をサポートする予定のSprint Nextel社でさえも、「WiMAXはCDMAよりも低コストであると同時に、少なくとも4倍の周波数利用効率を実現できる」と主張している。もちろん携帯電話事業者らによるノート型パソコン用のデータカードの販売は好調である。これらの3G携帯ネットワーク拡張は、まだ音声伝送にはあまり対応していないが、近い将来対応することになるだろう。
3GPPおよび3GPP2の団体は、3G携帯ネットワークを改良する一方で、おそらくは4Gで利用されるOFDM方式にもかかわっている。3GPPはLTE(long term evolution)を、3GPP2はUMB(ultra mobile broadband)を開発している。いずれもその概念はMobile WiMAXに似たものである。両者とも現段階ではまだ、成功するかどうかを見極めることはできない。
一方、携帯電話とWiMAXの事業者は対立関係にある。WiMAXに関しSprint Nextel社と密接な提携関係にあるIntel社、Samsung社、Motorola社、およびNokia社は、新しい形態の民生機器をネットワークに接続するには、携帯電話技術よりもWiMAX技術が適していると主張する。これらの企業は、ポータブルゲーム機器やデジタルカメラなどの製品が、WiMAXで接続する対象となるだろうとしている。QUALCOMM社は、特に積極的にこれらの製品を対象としており、これらの技術のみをターゲットとしたチッププラットフォームである「Snapdragon」を発表した。一方Motorola社、Samsung社、Nokia社は、携帯電話機にMobile WiMAXに対応する機能を追加中で、Samsung社はすでに韓国内でWiMAX対応の製品を販売している。
韓国は、最初にWiMAXの能力を証明するはずであった。韓国の企業や政府は、早い時期にQUALCOMM社のロイヤルティから解放してくれる可能性のあるこの技術を採用した。しかし韓国でWiBro(wireless broadband)と呼ばれるMobile WiMAXは、これまでのところ決してうまくいっているとはいえない。これまで韓国は、初期段階で新技術を採用することで成功を収めてきた。Analog Devices社のGratzek氏は、「韓国では3G携帯サービスとFTTH(fiber to the home)が普及していることから、WiMAXの展開が進まなかったのではないか」と推測する。
次にWiMAXが成功する可能性があるのは日本市場である。日本政府は、ワイヤレスブロードバンドの周波数帯域のオークションに向けて準備中である。Intel社のNardone氏によると、「5つのオークション参加企業のうち4社がWiMAX技術を推進している」という。しかし、日本でもFTTHが普及しており、3G携帯ネットワークのユーザーが多いことから、韓国と同じ問題に悩まされる可能性はある。
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