Sprint Nextel社などのサービスプロバイダがこぞって一般向けにWiMAXのサービスを開始するに連れ、一般ユーザーには低コストで実用的なWiMAX対応の機器が必要になる。これにより、チップセットに対しては低コストと低消費電力の要求が高まる。結局のところ、クライアントがノート型パソコンであれ次世代スマートホンであれ、電池寿命がMobile WiMAXの鍵を握っているのである。
初期のWiMAXチップは低消費電力とは程遠いものであった。Analog Devices社のGratzek氏は、「最初のWiMAX向けSoCの消費電力は2W〜3Wで、初期のパワーアンプは5Wも電力を消費していた」と指摘する。これらの製品を電池駆動のアプリケーションに使用できないことは明らかであり、基地局用途でさえも現実的にはそれより少ない消費電力で動作する必要がある。
幸いなことに、LSI業界では低コスト化と低消費電力化に迅速に対応した新しいチップが期待通りに出現しつつある。Intel社の初期のWiMAX対応SoCである「Rosedale」は、当時の製品の中では最も性能の高いものの1つであった。同社からはその後、Mobile WiMAXの機能をサポートしたRosedaleの2つ目のバージョンが出荷されているが、同LSIでもポータブル機器に使用するにはまだ消費電力が多すぎる。
最近発表されたWiMAX Connection 2300は、Wi-FiとWiMAXを統合したチップセットで、ノート型パソコンのみでなくポータブル機器をもターゲットとする予定である。Intel社のNardone氏は、「このチップセットは携帯電話機の電力要件を満たす予定だ」と主張する。Nardone氏は仕様の詳細については言及していないが、「まったく新しいアーキテクチャを採用することにより消費電力の低減が実現される」と述べている。同氏によると、規格が定まっていなかったために、Rosedaleの設計はDSPおよびソフトウエアベースであった。次世代製品では、「最適化されたハードワイヤードのアーキテクチャが採用される」(同氏)という。
Analog Devices社のGratzek氏の考えは、「いくつかの動きにより、消費電力の問題が解決されることになる」というものだ。同氏は、「RFフロントエンドの標準化が鍵となる」と述べている。Gratzek氏によると、「初期設計における問題の1つは、ベースバンドSoC上にデータコンバータが必要であったことだ。そのため、LSIの製造に使用できるプロセス技術の種類が限定されていた」という。
Analog Devices社は、ADIQ(analog digital IQ)インターフェースを開発した。これはトランシーバICにおいて、ベースバンドチップにデジタルインターフェースを、パワーアンプにRFインターフェースを提供するというものである。Gratzek氏は、「『RF to bits』無線により、ベースバンドチップの設計者は90nmプロセスでの設計に移行し、消費電力を大きく低減することが容易になる」と述べている。Analog Devices社は、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)によりADIQを標準化することで、異なるベンダーのベースバンドチップやトランシーバICと容易に組み合わせて使えるようになることを期待している。
別のトランシーバICベンダーであるSiGe Semiconductor社は、「ADIQの手法も悪くはない」としているが、「最終的には携帯電話機ベンダーは、ベースバンドチップとトランシーバIC間にシリアルインターフェースを要求することになるだろう」と考えている。同社のシニアシステムエンジニアであるDarcy Paulin氏は、「今日の携帯電話機ベンダーは、シリアルインターフェースであるためADIQインターフェースよりもピン数が少なく、高いデータ転送速度が得られるDigRFインターフェースを使用している」と指摘する。ただしDigRFインターフェースでは、WiMAXやほかの4G技術をサポートするだけの通信速度は実現できない。
Paulin氏は、WiMAX向けに2つのインターフェースが出現するだろうと考えている。SiGe Semiconductor社は、MIPI(Mobile Industry Processor Interface)シリアルインターフェースを開発中である。Paulin氏は、「ADIQは基地局やほかの製品には使用されるようになるかもしれないが、端末ベンダーはMIPIを使用することになるだろう。従って、当社は両方をサポートすることになるはずだ」と予測している。
一方、業界では各種製品が登場し始めている。例えば、Wavesat社は、ベースバンドチップの新しいファミリ製品「Umobile」を提供している。これは、同ファミリ製品初のMobile WiMAX用チップで、消費電力はわずか150mWである。
しかしAnalog Devices社のGratzek氏は、「パワーアンプの問題はまだしばらく解決されない」と予測する。米Sirenza Microdevices社などの企業からは、約2Wで動作するパワーアンプが提供されているが、消費電力がこれ以上大きく低減されることはなさそうである。Gratzek氏は、「パワーアンプの消費電力の問題はどのようにして解決すればよいのか分からない」と語る。「しかし、パワーアンプは常に動作しているわけではなく、高速な通信が要求されるのは下りの通信時である」(Gratzek氏)という。実際には待ち受け時間が長く、その間は消費電力の高いパワーアンプの問題は生じない。
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