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「熱」と正しく向き合う熱設計の基礎理論から評価/計測ノウハウまで(2/8 ページ)

» 2007年07月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]

■「低温」にも要注意

 エンジニアの多くは、低温での回路の性能にはあまり気を配らない。しかし、これは誤りである。半導体チップの性能は、低温時には室温時/高温時とまったく変わってしまう可能性がある。例えば、バイポーラトランジスタのベース‐エミッタ間電圧は、低温では大きく増加する(図2*1)。米Analog Devices社の製品開発エンジニアリングマネジャであるFrancisco Santos氏は、「0℃未満の温度において電源電圧1.8Vで動作可能なアンプを設計するには、室温から−40℃に変化した場合にベース‐エミッタ間電圧が130mV程度増加することを考慮に入れなければならない」と述べている。この事実から、「この種のオペアンプの設計者は、通常とはまったく異なるアーキテクチャを採用する必要がある」(Santos氏)という。


図2 バイポーラトランジスタの温度特性 図2 バイポーラトランジスタの温度特性 コレクタ電流の値が一定の場合、温度が上昇するとトランジスタのベース‐エミッタ間電圧は相対的に低下する。コレクタ電流が1mAの場合で、−40℃と125℃における同電圧には2倍近い差が生じる(提供:Fairchild Semiconductor社)。

 Analog Devices社の「AD8045」をはじめ、オペアンプには低温になると帯域が広がるものが多い(図3)。その一方で、「AD8099」などのように低温で帯域が狭くなるものもある。米Linear Technology社の元シグナルコンディショニング製品担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネジャのBill Gross氏は、「バイポーラトランジスタにおける低温時の問題の多くは、低電圧動作に現われる」と語る。同氏によれば、ベース‐エミッタ間電圧が高く、電流増幅率(β)が低くなると、仕様で規定された条件を満たすのが困難になるという。

図3 オペアンプの温度特性 図3 オペアンプの温度特性 ボード線図から、このオペアンプの帯域は温度が低下すると広くなることが分かる。また、時間領域で見ると、リンギングとして表れるピーキングも増加する(提供:Analog Devices社)。

 「入力インピーダンスが低く、電流増幅率に不整合があると、低温時により大きな問題が発生する。特に、回路が室温に対応して設計されている場合にはそうなる。動作電流を変えれば、高くなったトランスコンダクタンス(gm)を容易に補正できるが、そうするとスルーレートが変動してしまう」(Gross氏)。

 低温の条件では、振動、不安定な状態、オーバーシュートなどの現象が生じてフィルタ性能が低下するといったことが起きる。ICチップが−55〜85℃の範囲で動作する場合、室温の25℃は、最高温度の85℃とは60℃しか差がないが、最低温度の−55℃とは80℃も差がある。高温時だけでなく、低温時における誤差の許容範囲についても十分に検証しなければならない。

脚注

※1…Pease, Bob, "What's All This VBE Stuff, Anyhow?".


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