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「熱」と正しく向き合う熱設計の基礎理論から評価/計測ノウハウまで(3/8 ページ)

» 2007年07月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]

■温度と寿命の関係

 チップの上にプラスチック製のものがなければ、炭化や劣化は生じない。油井用機器のメーカーは製品に使用するICの特性評価を200℃の条件で行うことが多いが、プラスチック製のパッケージで覆われているものよりも覆われていないもののほうが製品の寿命はかなり長くなる。なお、チップ温度が150℃未満の場合でもICの寿命は短くなる。

 1884年にオランダの化学者Jacobus H van't Hoff氏が1つの式を提案した。その5年後、スウェーデンの化学者Svante Arrhenius氏がそれを物理的に証明した。それがArrheniusの式と呼ばれるものである(以下参照)。

k=Ae(−Ea/RT)

 ここで、kは反応速度定数、Aは定数、Eaは活性化エネルギ、Rは気体定数、Tは絶対温度(単位はK)である。当初、Arrhenius氏はこの式を化学反応に適用し、温度により反応が加速することを示した*2)、*3)。現在では、エレクトロニクスのエンジニアも、これを用いて高温動作時に電子部品の寿命が短縮する様子を表している。この式から、温度が10℃上昇するごとに、部品の寿命がほぼ半減することが分かる。従って、回路内のICの温度を低下させることが重要である。ICの温度を85℃から65℃に低下させることができれば、その寿命は4倍になる。

■温度の「変化」による影響

 高温/低温に保たれる場合だけでなく、温度が変化する場合にも問題は生じる。極端なケースでは、熱衝撃により基板や部品がバラバラに破壊されることもある。温度変化によって小さな電圧差が生じ、はんだや端子材料の熱電対効果によって問題が発生する場合もある*4)。もちろん、温度の変化自体が動的であるケースも少なくない。

 National Semiconductor社、米Fairchild Semiconductor社、米Maxim Integrated Products社、Linear Technology社に勤めた経験を持ち、電子工学エンジニアの先駆者ともいえる故Bob Widlar氏は、ある周波数(1kHz)で動作しなくなったプロトタイプチップを受け取ったことがあるという。Widlar氏は、そのチップの出力トランジスタから放出される熱波に気が付いた。問題は、このIC上の出力トランジスタから2つのリファレンスノードへの距離が異なっていたことである。1kHzで動作する際、基準ノードの1つがもう一方より高温になり、この状態が原因でバイアス電流が不安定になっていた。そのため、部品が正常に動作できなくなっていたのだ。

 このように、温度変化による影響があることから、電源の設計においては、パワーFET内蔵のICよりもパワーFETとコントローラとを別チップで使用することが好まれる場合もある。別チップの構成であれば、パワーFETからの熱がアンプ回路や基準回路に対して大きな影響を及ぼすことはないからだ。

脚注

※2…"What Causes Semiconductor Devices to Fail?" Test & Measurement World, Nov 1, 1999.

※3…Osterman, Michael, PhD, "We still have a headache with Arrhenius," Electronics Cooling.

※4…Williams, Jim, "Measurement techniques help hit the 1-ppm mark," EDN, April 26, 2001, p.117.


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