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ホームオートメーションを支えるネットワーク技術電力線通信とRF通信の実用性を探る(2/5 ページ)

» 2007年10月01日 00時00分 公開
[Richard A Quinnell,EDN]

電力線通信

 ケーブルを利用する場合の欠点に対処するため、HAシステムでは、どこの家庭にもすでに敷設されている配線を活用することが考えられている。つまり、電力線である。ネットワーク用の配線として電力線を用いる利点は2つある。1つは、すでに敷設が済んでおり、ほとんどすべての場所に電子/電気機器が存在することである。2つ目は、HAシステムで利用する電子/電気機器に、電池などの外部電源が不要であることだ。どちらも民生機器向け技術に対する低コストと使いやすさという要件に合致する。

 しかし、電力線を利用したネットワークにも欠点はある。ノイズが大きく、照明やモーターのスイッチのオン/オフ、負荷の変動などによって生じるさまざまなスパイクノイズが家庭内へと伝播されて、電磁妨害を引き起こす可能性があることだ。このノイズ対策のために、電力線を用いたネットワークでは、通信の帯域幅を制限するか、ノイズおよびエラーを除去するための、高度で高価な技術を用いる必要がある。

 X10規格は、帯域幅を制限する手法を使った1つの例である。ノイズの影響を回避するために、X10通信はAC電源のゼロクロスポイントで行われる。120kHzでの120サイクル分のバーストは「1」を表し、パルスがない状態は「0」を表す。基本的なノイズ対策として、バーストは次のゼロクロスポイントで繰り返される。その結果、ローデータ速度は60ビット/秒となり、同期、フレーミング、アドレッシングビットによるオーバーヘッドのために、最大データ通信速度は60%減少する。このようにデータ通信速度が遅いため、X10のネットワークは基本的な制御やセンシング機能にしか利用することができず、一連のコマンドを実行するとなるとかなりの遅延が生じてしまう。

 2つ目の例は米SmartLabs社の「INSTEON」である。X10と類似した手法をとっており、24ビットのパケットをゼロクロスポイントで送信し、各ビットが131.65kHzの10サイクルとして符号化される(図1)。2880ビット/秒という連続ビットレートを実現し、X10と比較するとその有用性や遅延はかなり改善されている。また技術的に類似しているため、INSTEONネットワークはX10対応機器を制御することができ、消費者の要求である相互運用性も実現していることになる。

 3つ目の例は、米Powerline Control Systems社の「Universal Powerline Bus(UPB)」である。このシステムは、ゼロクロスポイント当たり2ビットを符号化するパルス位置変調(PPM:pulse position modulation)を用い、ゼロクロスポイントにおいて40VDCの“スパイク”を電力線に印加する。その際、フィルタリングにより、スパイクが電力線に過度のEMI(電磁波干渉)を生じないようにする。データ通信速度は数百ビット/秒である。

 このシステムもデータ通信速度が遅いため、ネットワークに応用するには制約があり、消費者が期待する機能の多くを実現することができない。電力線を用いた手法でより広い帯域幅を実現するには、より高度な通信手法やプロトコルが必要になる。例えば、Echelon社の電力線トランシーバ「PL3120」は、データの復元とノイズの除去を行うDSPを搭載し、最大5.4キロビット/秒のデータ通信速度を実現する。

 データ通信速度はここ数年で飛躍的に向上した。米国の業界団体であるHomePlug Powerlineアライアンスが定義した新しい電力線搬送通信の仕様「HomePlug AV」は、米Intellon社の技術を用い、OFDM(直交周波数分割多重方式)を採用して、最大200メガビット/秒のデータ通信速度を実現している。この速度ならば、照明や電源などの簡単な制御だけでなく、IP(internet protocol)テレビなどエンターテインメントメディア用の通信ネットワークとしても利用することができる。ただし、この高度な技術の実装にかかるコストを、広く普及するために必要な水準まで引き下げられるかどうかは、まだ明らかでない。

 電力線通信には、コスト以外にも長期的に普及の妨げとなり得る問題点がある。例えば米国の家庭では、位相のずれた2つの120V電圧がニュートラル線とともに供給される。これにより、暖房機器やドライヤなど消費電力の大きい器具に対しては電圧240Vを供給し、普通の家電器具に対してはより安全な120Vを供給することができる。しかし、家庭内の電力線は位相が2つに分かれているために、電力線通信を行う場合は、位相間のブリッジノードか高周波シャントがなければ、信頼性を保った状態で位相間を交差することができない。この処理を行うために、ホームネットワークの実装は複雑でコストの高いものとなり、消費者には受け入れられない可能性がある。

 また、電力線通信はシステム内のすべてのノードにおいて電力線を必要とするため、設置の柔軟性という面では制約があり、照明用スイッチやサーモスタットなどの制御ノードの位置が限定される。消費者としては何の制約もなく、どの機器も好きな場所に配置できることが理想だ。

図1 INSTEONの電力線通信手法 図1 INSTEONの電力線通信手法 ゼロクロスポイントにおける高周波バーストによりデータビットを符号化し、X10技術よりも高速なデータレートを実現しながら、相互運用性を確保している(提供:SmartLabs社)。

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