どのようなシミュレーションモデルにも精度面で制約がある。本稿で紹介したマクロモデルも例外ではない。とはいえ、このマクロモデルの制約条件がさまざまな回路のシミュレーションで問題になるケースは少ない。しかし、どのような制約条件があるかを認識しておくのは重要なことであり、それが異常なシミュレーション結果の発生を防ぐことにつながる。
一般に、オペアンプは高周波域にいくつかの極とゼロを持っており、それによって安定性(位相余裕)が決まる。このマクロモデルでは、極の数を2個としている。高周波域の極とゼロの位置は製造メーカーにしか分からないことであり、通常はデータシートにも情報が記載されていない。必要ならば、高周波域の極とゼロのすべてをモデル化することによって、安定性とオーバーシュート性能をより正確にモデル化することも不可能ではない。もし、そのような面での精度が必要で、高周波域の極とゼロの位置が分かっているならば、参考文献*9)に記載された手法を用いることにより、マクロモデルに極とゼロを追加することができる。
オペアンプは限られた入力電圧範囲でしか正常動作しない。その電圧範囲は、通常、電源電圧の全範囲ではなくその一部の範囲となる。npn/pnpトランジスタ入力に対するマクロモデルでは、この出力電圧範囲を入力トランジスタが逆バイアスになる条件から求めているため、モデルは正確である。一方、高インピーダンス入力に対するマクロモデルは、入力電圧の値によらず正常動作し、現実のオペアンプの動作とは異なる。
また、このマクロモデルは電源電圧が変化したときの出力電圧の変化、すなわち電源変動除去比(PSRR:power supply rejection ratio)に対するモデルを含まない。この特性は、出力段を構成しているアークタンジェント関数でモデル化するのは難しい。
加えて、各種特性の温度依存性やACノイズはモデル化していない。ただし、マクロモデルはモジュール構成をとっているので、これらの機能を必要に応じて付加することは可能である。
※9…eCircuit Center, Opamp Model-Level 3, "Frequency Shaping,".
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