一見すると、オペアンプは、非常に単純な素子のようにも感じられる。しかし、そのデータシートを見れば、実際には極めて複雑な部品であることがわかる。従って、オペアンプを選択する作業も複雑なものとなる。適切な製品を選択するにはどこに注目すればよいのか、本稿ではそのポイントをまとめる。
最も一般的なオペアンプには、入力端子は2本、出力端子は1本しかない。このことだけ見れば、実に単純な素子のようにも思える。そのため、オペアンプの選択はさほど難しいことだと感じない人もいるかもしれない。しかし、オペアンプを利用した回路を設計する際には、実際には2本の電源端子についても考察する必要がある。それでも計5本の端子しかないが、これらにかかわる実に多くの仕様が存在することを知っておかなければならない(図1)。実際、オペアンプの選択は、アナログシステムの設計者らが直面する厄介な作業の1つになり得る。
オペアンプを選択する際には、その最大/最小動作電圧、静止電流(無信号、無負荷時の消費電流)、出力電流、その他の電流がどうなっていなければならないのかを検討する必要がある。例えば、2本の電源端子については、それぞれを正負の電源につないで動作させるのか、それとも負電源端子はグラウンドに接続して使用するのかといったことを決定しなければならない。
多くのオペアンプ製品は単電源の回路だけでなく、正負両電源の回路にも接続できるが、何らかの要因によって、単電源で利用するほうが都合が良い場合がある。両電源での動作に対応可能であるのにもかかわらず、オペアンプのデータシートには、通常、単電源での動作における仕様が記載されている。この事実も、さらに選択を困難にする。
出力電流も重要な仕様である。レールツーレール出力の製品であれば、両電源電圧に近い値を出力する場合でも、十分な出力電流が得られる。また、出力トランジスタとしてFET(field effect transistor:電界効果トランジスタ)を用いている製品であれば、バイポーラ製品よりも電源電圧に近い出力を得ることができる。
歪(ひずみ)の少ないシステムを構成したければ、出力端子のインピーダンスが周波数によって変化することも理解しておかなければならない。また出力端子が駆動できる容量性負荷の値にも制限がある。中には、米National Semiconductor社の「LM8272」のように、無限の容量性負荷を駆動できるとうたう製品もある。しかし、例えば一般的なビデオアンプなどは、わずか数十ピコファラドの容量負荷が存在するだけでも発振する。
オペアンプの選択に当たって重要視されるポイントは、人によってさまざまである(図2)。例えば、米Analog Devices社のアプリケーションエンジニアリング担当ディレクタを務めるDave Kress氏は、重要な要素として以下の5つを挙げる。
一方、米Texas Instruments社のBurr-Brown部門でリニアアプリケーションマネジャを務めるTim Green氏は、以下の3つに基準を絞っている。
他方、National Semiconductor社のアプリケーションエンジニアであるPaul Grohe氏は、「オペアンプ内部についてさらに深い考慮が必要だ」として、以下の2つが重要だと指摘する。
同氏は、「高速な製品や低ノイズの製品はより多くの電流を消費する。また入力ソースのインピーダンスが高い場合には、入力バイアス電流が最も重要な仕様となる」と語る。
National Semiconductor社サイエンティストのBob Pease氏は、「サプライヤが適切な時期までに製品を提供できないのならば、仕様など意味を持たない」と前置きした上で、「見落とされがちだが、ノイズは非常に重要なパラメータだ」と指摘する。加えて、「オペアンプの選択手法に簡単な答えなど存在しない。自分自身の判断が重要な意味を持つ。すべての用途において、1つか2つの主要なパラメータがあるので、それが何なのかを見つけ出さなければならない。あらゆる要求を満たす製品を手にすることなどできない」(同氏)と語った。
米Linear Technology社信号処理部門のアプリケーションマネジャであるTim Regan氏は、「SNAP」という略語を用いて技術者らに重要なトレードオフについて理解してもらっているという。SNAPの意味は以下のとおりだ。
米Maxim Integrated Products社のオペアンプ/コンパレータ担当ビジネスマーケティングマネジャを務めるPatrick Long氏も、パッケージを重要な基準として挙げている。例えば部品のターゲットが携帯電話機であるとすれば、フリップチップパッケージ/はんだバンプパッケージを使用したいと考えるのは自然なことだろう。こうしたパッケージであれば、シリコンチップと同じサイズの基板面積しか必要としない。それでいて、高性能なアナログ機能を得ることができる。
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