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オペアンプ選びの道しるべ「正解」を導き出すためのポイントをつかむ(3/3 ページ)

» 2008年02月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]
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ツールの活用

 製品のフィールドアプリケーションエンジニアや工場のアプリケーショングループには、遠慮せずに問い合わせを行うべきである。例えばAnalog Devices社やTI社などのメーカーはあらゆる種類のオペアンプを販売しているので、特定の製品を推奨するようなことはない。ただし、設計にかかったコストを取り戻そうと、メーカーが最新製品を販促していることはあり得る。

 このようなケースに遭遇しないようにするために、National Semiconductor社のGrohe氏は、選択ガイドの利用を推奨する。「選択ガイドでパラメータを用いて検索を行えば、ごく最近、設計されたばかりのものから20年前のものまで、要求した仕様を満たすすべての製品が表示される」(同氏)からだ。Grohe氏は、同社のオペアンプのウェブページからダウンロード可能な選択ガイドを開発した。TI社、Analog Devices社、スイスSTMicroelectronics社などもオンラインの選択ガイドを提供している。

 Linear Technology社は、充実した機能を提供するSPICEツール「LTspice」を開発した。これも無償でダウンロード可能である。同ツールを設計したMike Engelhardt氏によると、このツールは磁性部品も扱えるという。TI社も、機能豊富なSPICEツール「TINA-TI」を提供している。これもダウンロード提供されているが、ノード数には制限がある。Analog Devices社も、シミュレータとオペアンプ評価ツール「ADIsim」を無償でダウンロード提供している。同ツールを使えば、米National Instruments社の「LabVIEW」を用いた簡単な評価が行える。製品を選択し、その製品のモデルが存在する場合には、National Instruments社の完全なSPICEエンジン「Multisim」を使用するように動作が切り替わる。

 SPICEツール以外にも、Analog Devices社、National Semiconductor社、TI社らはさまざまなウェブベースのツールを提供している。例えば、計装アンプを用いた設計の支援を行うツールなどである。

 フィルタ回路の設計に関しては、例えばTI社は「FilterPro」というソフトウエアを提供している。これもダウンロード提供されており、多極フィルタの応答を知ることができる。National Semiconductor社はフィルタ設計向けツール「WEBENCH Active Filter Designer」を提供している。これを使えば、オンラインでSPICEシミュレーションを実行してその応答を確認することができる。

前提知識の習得

 本稿で説明したとおり、オペアンプの選択は意外に厄介な作業である。製品仕様が複雑なだけでなく、従来の電圧帰還型オペアンプ以外にも、さまざまな製品が存在するからだ(別掲記事『さまざまなオペアンプ』を参照)。オペアンプの選択における微妙な問題をすべて理解するには、関連する書籍や雑誌などで勉強する必要があるかもしれない。

 アプリケーションエンジニアは、検索すべき正しい条件やオペアンプの種類を理解する上で心強い支援を提供してくれるだろう。知識の吸収と理解が進めば、さまざまな選択ガイドやオンラインツールを活用できるようになる。あるいはベンダーが提供するSPICEモデルを用いて、「OrCAD」や「Altium」、「PADS」、「Electronics Workbench」といったツールで回路シミュレーションも行えるようになる。

さまざまなオペアンプ

図A 電流帰還型アンプの概念図 図A 電流帰還型アンプの概念図 電流帰還型アンプは、高いスルーレートが求められる用途で用いられる。差動入力ペアにおける電流は、スルーレートに制限を与えない。

 オペアンプの選択基準は、一般的なオペアンプの使用方法を想定して設けられることが多い。しかし、オペアンプにはさまざまな種類があり、特殊なものに分類できる製品もある。ここでは、その代表的な例をまとめる。

・電流帰還型アンプ

 電流帰還型アンプは、高いスルーレートが必要とされる映像/DSL(digital subscriber line:デジタル加入者線)の用途でよく使用される(図A)。スルーレート以外の特徴としては、ゲインが高くても帯域幅が減少しないことが挙げられる。加えて、歪も小さい。そのため電流帰還型アンプは、高速で低歪であることが要求される用途に適している。

・複合アンプ

 やや複雑な例として、複合アンプ(compound amplifier)が挙げられる。これには、ディスクリートのトランジスタを利用したものや、内部に複数のアンプ段を持っているタイプのものが該当する。例えば米Cirrus Logic社の「CS3001」の開ループゲインは300dBもある。これは、信号経路に複数のアンプ段が存在することを表している。またその位相応答からもこの部品が複合アンプであり、計装に適していることがわかる。ゲインが大きいということは、歪が小さいということも意味する。

・チョッパアンプ

 複合アンプの一種に位置付けられるものに、チョッパアンプ(自動ゼロ補正アンプ)がある。これは、オフセット電圧を常に補正する第2のアンプを備えた製品である。オフセットの補正によって低周波ノイズも除去されるため、この種の製品はDC信号を扱う計装用途に適している。欠点としては、速度が遅く、一般に100Hz〜35kHzの範囲にあるチョッピング周波数が出力に影響を与える点が挙げられる。ただし、この周波数は対象とする周波数範囲の外にあり、後段の回路によって影響を除去できるケースが多い。

 例外的なものとしては、National Semiconductor社の「LMP2011」がある。これもチョッパアンプなのでオフセットはマイクロボルトオーダーだが、帯域幅が3MHzもある。また、ほかのチョッパアンプより遷移応答やスルーレートの面でも優れていると言える。

・差動出力アンプ

 出力部が差動構成になっているものもある。この差動出力アンプは、多くの場合、グラウンドループや差動入力A-Dコンバータのバッファリング部からの影響を避けたいオーディオ信号経路などに用いられる。A-Dコンバータのバッファリング部はギガヘルツオーダーで動作するのに対し、差動出力オーディオアンプはキロヘルツオーダーで動作する。

・計装アンプ

 計装アンプは、3つのアンプで構成される複合アンプである場合が多く、広い入力電圧範囲で動作可能である。通常は、出力基準を所望の電圧に設定可能な基準端子を持つ。この機能により、歪ゲージなどにおけるホイートストンブリッジ回路による測定や、ハイサイド電流の測定に適したものとなっている。

 計装アンプの欠点は、速度が遅くコストが高いことである。計装アンプは、DC信号向けである場合が多いが、TI社Burr-Brown部門の「PGA206」のように、ゲインによって0.5MHz〜5MHzの帯域幅を持つものもある。この製品のゲインはデジタル的にプログラム可能で、JFET入力段を備えるため、低いノイズと高い速度が実現されている。

・その他のアンプ

 最近ではあまり使われなくなったが、その使い方を理解しているアナログの専門家にとってはいまだ有用なものがある。例えば、National Semiconductor社の「LM13700」は、ゲインが可変のトランスインピーダンスアンプである。この製品が対象とする膨大な用途を見るだけでも、そのデータシートを読む価値がある*1)

 またNational Semiconductor社の「LM359」は旧世代の「LM3900」とともにノートンアンプ(norton amplifier)に分類される製品である。この種のアンプは、ほかのほぼすべてのアンプに採用されている電圧差動型の入力回路ではなく、電流差動型の入力回路を備えている。かなり特殊なものだが、回路に対する理解を深める上で興味深い動作を示す製品だと言える*2)

 米On Semiconductor社の「MC33304」も古い製品だが、電力調整が可能だというユニークな特徴を備える。出力電流の値がユーザーが設定可能な閾(しきい)値を超えると、静止電流と周波数応答が変化するという点が興味深い。



脚注

※1…"LM13700--Dual Operational Transconductance Amplifier with Linearizing Diodes and Buffers," National Semiconductor, 2007.

※2…"LM359 Dual, High Speed, Programmable, Current Mode(Norton)Amplifiers," National Semiconductor, August 2000.


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