人工衛星では、主電源として太陽電池や、ラジオアイソトープを熱源とする熱電変換機などが用いられることが多い。このような用途では、電源を投入した際の突入電流のような過渡的な電流や偶発的なスパイク電流を含めて、出力電流の絶対最大定格を超えないよう、電源の電流量を正確に制御しなければならない。この種の電源は、たとえごくわずかな時間でも過電流が流れると、致命的な電圧低下を起こしたり、遮断状態になったりするからである。
このようなスパイク電流は、一般的にはレギュレータの出力に接続されたデカップリングコンデンサ(以下、出力コンデンサ)を充電する際に発生する。レギュレータ出力のスパイク電流は、(何らかの要因でクリップされなければ)レギュレータ出力の電圧上昇速度と出力コンデンサの容量値の積に等しくなる。すなわち、以下のような関係が成り立つ。
ここでIMAXは最大電流値、dV/dtは出力電圧の時間変化率、COUTは出力コンデンサの容量値である。この式から、電源投入時のレギュレータの最大電流を制限するには、dV/dtを制限するのが最善の方法であることが分かる。この考えに基づくdV/dt制限回路を適用したレギュレータ回路の例が図1である。この方法は、例えば低ドロップ電圧の「LM2941」など、産業用として標準的に用いられているリニアレギュレータに対して適用可能である。
このdV/dt制限回路は基本的に6個の部品から構成される。その部品とは、抵抗R3、R4、コンデンサCT、ダイオードD1、D2、トランジスタQ1である。R3、CT、およびD2を経由する電流は電源投入から遅れて立ち上がる。その電流によって制御されるレギュレータの出力電圧も立ち上がりが遅れることになり、その結果として、最大突入電流が制限される。
回路の動作は次のようになる。まず入力電圧VINが印加されていてQ1がオフしているときは、R3、CT、D2を経由する電流がレギュレータのADJ端子の電圧を基準電圧まで引き上げる。ADJ端子の電圧の変化速度は、R3+R1R2/(R1+R2)の式で求められる直列抵抗を流れる電流がコンデンサCTを充電する速度によって決まる。このADJ端子の電圧の変化速度によって出力電圧VOUTの変化速度dV/dtが決まることになる。
dV/dtや最大電流IMAXについては、次の3つの式で表される関係を考えることができる。
これらの式で表される関係に基づき、例えば、図1の回路定数を前提とした場合、COUTは100μF、dV/dtは2500V/s、IMAXは0.25Aといったように設計することができる。
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