メディア

外部電源、その「高効率化」に待ったなし!規制強化の現状と、効率向上のポイントを探る(2/3 ページ)

» 2008年06月01日 00時00分 公開
[Margery Conner,EDN]

代表的な強制規格

 ENERGY STARプログラムの成否は、消費者が、価格が多少高くなっても環境に優しい電気製品を選択しようと考えるかどうかにかかっている。米カリフォルニア州エネルギ委員会(CEC:California Energy Commission)は、「環境に対する消費者の意識はそれほど高くないのではないか」という懸念を抱いている。そのため、同州で販売される電気製品に対し、ENERGY STARで任意規格として定められている事柄を基本的に必須とする強制規格を策定した。

 CECによるこの強制規格は、2007年7月1日に施行された。当初は一部の機器メーカーからの反発もあったが、この制度は始動し、現在では米国で販売されるすべての電子機器に対する基準となりつつある。カリフォルニア州は米国経済の約10%を占める市場だからである。しかし、電源装置メーカーは、他州がカリフォルニア州に倣うことにより、結果として、競合する規格の数が増えてしまうのではないかとの懸念を示している。

 一方で、米政府は、2007年12月に成立した「2007年エネルギ自給/安全保障法(Energy Independence and Security Act of 2007)」に基づき、EPSの電力効率に対する規格を制定した。この新しい法律は、どの州の任意/強制規格よりも優先されるものである(表1。表中のPNOについては後述)。また、新たな規格は、CECが定めるレベルにも対応しており、CECの新たな強制規格と同じく2008年7月に施行される。

表1 2007年エネルギ自給/安全保障法が定める規格値 表1 2007年エネルギ自給/安全保障法が定める規格値

EPSに対する規制強化

 連邦政府が定める規格は、政府、企業、および個々の消費者に対して提示される、EPSが満たすべき最低限の基準に過ぎない。効率にまで踏み込んだレベルの規制を米政府が開始したわけだが、ENERGY STARは依然として重要な役割を担っている。同プログラムの規格は、コストを抑えつつエネルギ効率を向上させることを目的とした技術の進歩に伴って強化されるからである。

 電源アダプタなどのEPS向けの規格であるENERGY STAR EPSのバージョン1.1は、効率に関する規格としてはそれほどハードルの高いものではない。同規格では、EPSのスペックを、装置に記載された最大電力である「銘板出力電力(PNO:nameplate output power)」で区別して規格値を定めている(表2)。例えば、36WのAC-DCアダプタであれば、稼働モード(アクティブモード)における最低平均効率として求められている値は約80%である。また、無負荷時の最大消費電力は0.75Wだ。

表2 ENERGYSTAREPSバージョン1.1が定める規格値 表2 ENERGYSTAREPSバージョン1.1が定める規格値

 ENERGY STARプログラムは、実用主義的な方策をとっている。実際、その初期バージョンでは“すぐに手が届きそうな目標”が掲げられていた。すなわち、効率の面でより有利なコンポーネントと比較的簡単な固定周波数のスイッチング方式を選択し、より多くの銅を使用したトランスと、少し高価な低オン抵抗のパワーMOSFETを使用すれば達成できるレベルを目標としていた。

 その次のフェーズとして、ENERGY STARプログラムは、より高効率でより複雑な設計が必要なEPSを開発するよう業界を導いた。具体的には、ENERGY STAR EPSバージョン2.0の草案(Draft 1 Version 2.0)において、より厳しい規格が提案された*4)。例えば、36Wの電源装置が満たすべき最低平均効率は、87%に引き上げられている*5)。すなわち、バージョン1.1に対して、損失電力を1/3近く削減することが求められているのである。また、無負荷時の消費電力については、0.5W以下に抑えることを要求している。

 ENERGY STAR EPSバージョン2.0の草案は、1800種のEPS製品に関するデータを基に作成された。その後も関連企業からの意見を収集し、最終版の規格が作成された。これは、2008年11月に施行される予定である。

 上述したように、ENERGY STAR EPSバージョン2.0は同バージョン1.1よりもかなり厳しいものとなっている。例えばバージョン1.1では、AC-ACコンバータとAC-DCコンバータをひとまとめにし、銘板出力電力のみで区別していた。それに対し、バージョン2.0では、すべての仕様において両者を区別する。

 さらに、同バージョンでは、以下のような改変が行われている。

  • 稼働モードにおける最低効率要件の引き上げ
  • 無負荷時における最大消費電力の引き下げ
  • 銘板出力電力が75W以上の電源装置に対するPFC(power factor correction:力率補正)要件

 これらの規格が、表3のようにまとめられている*6)。なお、ENERGY STAR EPS以外の規格については、別掲記事『電源効率の規格を巡る動向』を参照されたい。

表3 ENERGYSTAREPSバージョン2.0が定める規格値 表3 ENERGYSTAREPSバージョン2.0が定める規格値

電源効率の規格を巡る動向

 2006年まで、電気製品業界の多くの企業は1つの危惧を抱いていた。それは、グローバル市場に向けた製品販売において、“環境に優しい電源装置”を目指した米国ないしは国際的な規制が、コスト高の原因になるのではないかということだ。しかし、結果としては、多くの国がEPSと電池の充電器に関するENERGY STARプログラムに従った。現在では、「慎重な楽観主義(cautious optimism)」の段階に入ったと言える。特に、ENERGY STAR EPSバージョン2.0の草案の要件を満たすアダプタを製造すれば、それはおそらく国際的な規格を満たすものとなる。

 しかし、こうした規定の多くはさまざまな要因により流動的な状態にある。国が主導で行っている環境に対する取り組みには、政治的な問題が絡んでいるという事実も、その要因として小さくない。国際機関の動きにも注意し、新たに生まれる規格の動向を見守る必要がある。

 こうした電力効率規制に関する情報源の中でも、Power Integrations社が提供しているオンライン資料は、おそらく最も優れたものである

http://www.powerint.com/greenroom/)。ここでは、同サイトから得られる情報をいくつか紹介しよう。

 例えば、ENERGY STAR以外の任意規格によるラベルプログラム案の1つに、ドイツの政府機関や企業から成る団体が運営しているBlue Angelがある。また、CECは、カリフォルニア州で販売される電気機器が満たすべき強制規格を定めているが、現時点ではその要件はENERGY STARのガイドラインの範囲内にある。そして、2008年2月にCECの効率部門委員会(Efficiency Committee)は、電池の充電器を含む機器を対象とする「機器の効率基準(Appliance Efficiency Regulations)を修正するための次回の策定範囲」について、関連団体からの意見を得るためのワークショップを開催した。今後の規格に関する同委員会の決定に注目したい。

 一方で、中国のCECP(China Energy Conservation Project)は任意規格の策定を進めており、European Code of ConductはEUにおける任意規格を推進している。日本の経済産業省は、コンピュータ、コピー機、テレビ、ビデオ機器に対するスタンバイ要件を定める「トップランナー基準」という任意ラベル制度を策定している。米国の「1-Watt Standby(US Executive Order 13221)」指令は、FEMP(Federal Energy Management Program:連邦エネルギ管理プログラム)が定める、連邦省庁が購入する電気製品に対する強制規格である。



脚注

※4…"ENERGY STAR Program Requirements for Single Voltage External Ac-Dc and Ac-Ac Power Supplies, Eligibility Criteria (Version 2.0), Draft 1," ENERGY STAR.

※5…(編集部注)ENERGY STAR EPSバージョン2.0は、2008年4月23日に最終版(Final)となった。本稿は、基本的に草案(Draft)段階での情報を基に執筆されている。そのため、最終版と照らし合わせると、多少食い違っている記載がある。例えば、ここでの87%という値は草案段階での数字だが、最終版ではこれが84.6%となっている。

※6…(編集部注)ここでは、ENERGY STAR EPSバージョン2.0の最終版に記載されている情報を示した。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.