軍事、自動車、医療などの分野では、ICが故障することがないように、高い信頼性を確保することを目的とした技術がかなり以前から適用されてきた。民生向け製品の設計/製造に携わる企業も信頼性を軽視しているわけではなく、最短でも10年間のMTBF(mean time between failure:平均故障間隔)を確保することを目標に掲げている場合が多い。つまり、大抵の消費者が製品を使用し続ける期間よりも長い間、ICが故障しないようにすることを目標としている。
半導体ベンダーは、信頼性の高い製品を製造する前に乗り越えるべき多くの障壁に直面していることも事実である。より高速で小型で高性能な製品を求める消費者の要求に応えなければならないからだ。しかし、半導体業界のある識者は、「半導体ベンダーにとって、信頼性は今後も常に重要課題であり続ける」と語る。実際、多くの民生機器メーカーには信頼性工学を専門とする部門があり、設計、製造、パッケージング、バーンインといった各工程に対するガイドラインを設け、厳しい目で監視を行っている。特に、バーンインは、高温/多湿/高電圧という最悪の条件下で、性能の加速試験を実施する重要な工程である。
新しい製造プロセスが開発されるたびに、信頼性部門は、既存の、または新たな故障メカニズムを検出するべく常に目を光らせる(図1)。最新のプロセスでは、MOSトランジスタのゲートリークやプロセスばらつきなど、信頼性の高いICの製造を困難にする問題にも対処しなければならない(別掲記事『最新プロセスと信頼性の関係』を参照)。
米IBM社のシステム/技術グループで「System z」試験の技術担当マネジャを務めるJack Hergenrother氏は、「信頼性の世界には、『これまでと同じ』であるものは存在しない。新しい故障メカニズムに対する理解を深め、新しい視点で潜在的な問題点や故障のメカニズムを見つめるという点において、われわれは常に進化している」と述べる。同氏によれば、「このことはIBM社に限らず、業界全体に当てはまることだ。この10年間で、半導体製造技術の変化に伴い、新しい故障メカニズムがいくつか出現した。われわれは、設計/評価の段階で、それらのメカニズムについて十分に考察を行っている。こうした考察は、チップの信頼性とシステムの信頼性の両面から必要なものだ」という。
半導体業界のある識者は、「われわれの業界では、開発の全工程において信頼性の問題に適切かつ迅速に対処してきた」と語る。グラフィックスプロセッサベンダーである米NVIDIA社で技術/ファウンドリ事業担当バイスプレジデントを務めるJohn Chen氏は、「今後数年のうちに、すでに顕在化している信頼性の問題の多くは解決されるだろう。ただし、先端技術を最大限に活用しつつ、思わぬ危機を回避するために、設計者はこうした問題について認識しておく必要がある」と語る。
NVIDIA社や米Xilinx社は、新しいロジックプロセスを採用した設計の最先端にいる。Xilinx社の先端製品グループで製品開発エンジニアリング担当シニアディレクタを務めるGlenn O'Rourke氏は「両社とそのファウンドリパートナは、新プロセスが抱える潜在的な問題を認識しておかなければならない」と述べる(別掲記事『ファブレス企業の信頼性への対応』を参照)。
NVIDIA社の共同創設者であるChris Malachowsky氏は、1996年に同社初のチップを設計した。100万個というトランジスタ数は、当時としては膨大なものであった。それに対し、65nm技術を採用した同社最新のグラフィックスプロセッサのトランジスタ数は10億個を超える。同社のChen氏によれば、「グラフィックスプロセッサには莫大な処理能力が必要となる。そのため、トランジスタ数は18カ月ごとに2倍以上に増えている」という。このような状況に関して、同氏は、以下のようにコメントを続けた。
「何らかの制約から最先端のプロセスを利用できない一部のアプリケーションとは異なり、グラフィックスプロセッサの場合、常により小型で高速で高性能なトランジスタを利用することができる。われわれは、常に最先端の技術を利用して、ムーアの法則の波に乗るという最高の機会に恵まれている。しかし、最初に新しい技術を利用する企業には、信頼性をはじめとする新しい課題がつきものだ」。
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