米National Semiconductor社の「ADC1175」など、多くのフラッシュ(全並列)型A-Dコンバータでは、入力電圧範囲として0.6〜2.6V程度が推奨されている*1)。グラウンドを中心とした入力信号を扱う用途でこの種のデバイスを使用するには、入力信号のレベル変換/シフト処理が必要になる。本稿では、−0.2V〜0.2Vの範囲にある波形信号を0.6V〜2.6Vに変換する回路を紹介する(図1)。なお、この回路はA-Dコンバータの保護のために、出力が−0.3V以下になることを防止する機能も備えている。
図1の回路では広帯域特性を得るために、米Analog Devices社の電流帰還型デュアルオペアンプ「AD8002」を使用した*2)。前段の回路ブロックはオペアンプIC1Aによって構成した非反転増幅部であり、増幅度は5としている。このブロックの入力インピーダンスは高く、出力インピーダンスも後段のIC1Bへの入力として十分に低い値となっている。後段のブロックが本回路の心臓部である。このブロックはオペアンプIC1B、抵抗R4、R5で構成された反転増幅回路に、抵抗R3、ダイオードD1から成るクリッピング機能を付加している。クリッピングレベルは、抵抗R3、R4、R5、ダイオードD1によって決まる。また、ポテンショメーターP1の経路を流れる電流IDCにより、増幅回路出力のDCレベルをシフトできる。A-Dコンバータの入力電圧範囲0.6V〜2.0Vに対する所要の出力レベルシフト量である1.6Vを得るには、P1の値(とVCCの値)を調節する。
D1に流れる電流を無視すると、出力電圧レベルVOは次式で計算される。
ここで、右辺の第2項がレベルシフト量である。従って、上記の式は以下のように近似できる。
ダイオードD1の降下電圧VDIODEが0.6Vであるとしよう。そうすると、以下の式が成り立つ。
すなわち、クリッピングは0V近くで生じ、A-Dコンバータが保護される。なお、クリッピングレベルを上げると、非クリッピング領域でのリニアリティが劣化する。言い換えれば、クリッピングレベルとリニアリティはトレードオフの関係にある。
抵抗R8はA-Dコンバータへの入力電流を制限する。コンデンサC2は帯域制限を要する場合に使用する。コンデンサC1は、電源である−VCCからのノイズを低減するように働く。
※1…"ADC1175 - 8-Bit, 20MHz, 60mW A/D Converter," National Semiconductor
※2…"AD8002 Dual 600 MHz, 50 mW Current Feedback Amplifier," Analog Devices
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