RFID用のトランスポンダチップは、いくつかのベンダーから提供されている。例えば米Texas Instruments社は、ISO/IEC 15693に準拠したトランスポンダチップのシリーズ「Tag-it HF-1」を供給している。同シリーズの製品は、64ブロック/最大2048ビットのユーザーアクセス可能なメモリーを備える。また、タグを選択してデータを読み書きし、さらにロックするための多数のコマンドセットが用意されている。加えて、独自の識別コードを有しているので、リーダーは複数個のトランスポンダチップを認識/識別することが可能である。
なお、ISO/IEC 15693では、ダウンリンク通信(リーダーが送信してトランスポンダが受信する)にASK(Amplitude Shift Keying:振幅偏移変調)またはFSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移変調)を利用する。トランスポンダは、リーダーの問い合わせと同じモードで応答する。アップリンク通信とダウンリンク通信はフレーム同期しており、CRC(Cyclic Redundancy Check:巡回冗長検査)チェックサムを用いて信頼性を確保する。
RFIDシステムの大半は、専用のリーダーを必要とする。RFIDを組み込んだシステムの代表例は自動販売機であろう。自動販売機はリーダーを内蔵しており、RFIDカード(非接触ICカード)による代金の支払いを受け付ける。また、販売する商品にRFIDタグを装着し、自動販売機が機内の商品数を認識して、商品の補充が必要になったら商品を発注するという仕組みも用いられている。
こうした用途では、小型で安価なリーダーが必須となる。Texas Instruments社、米SkyeTek社、米Parallax社などがこの種のリーダーを供給している。例えば、Parallax社が米Grand Idea Studio社と共同開発したリーダーモジュールは、パッシブ型タグに対する読み取りをサポートする。用途としては、アクセス制御、自動識別、ロボット、ナビゲーション、在庫の追跡、料金支払いシステム、車両の盗難防止などがある。このParallax社製リーダーモジュールは通信速度が2400ボーのシリアルインターフェースを備えており、5Vの直流電源で動作する(写真2)。単価は40米ドル未満から。
産業用のものとしては、米GAO RFID社がUHF帯域のリーダー/ライター「Model 236002」を供給している(写真3)。2本の外部アンテナをサポートしており、902MHz〜928MHzの周波数帯域で通信を実行する。10m/sで移動するタグを最大7mの距離から識別できる。電源は直流12V。倉庫の管理や運送、製造ラインなどの分野をターゲットとしている。
ここで、RFIDの新たな活用例を2つ紹介しておこう。
■カジノでイカサマを見破る
カジノのテーブルゲームで、素早い手先の動きで行われるイカサマを発見するのは難しい。しかし、適切なデータ取得ツールがあれば、カジノの運営者はプレーヤーの動作を監視してカードのカウンティングを発見したりすることができる。あるいは、配当率を調整したり、ディーラーによるミスの有無をチェックしたりすることも可能である。
米International Game Technology社と米Progressive Gaming International社は、テーブルゲームの自動化システム「Table iD」を共同開発した。同システムは、テーブルマネジャと呼ばれるソフトウエアと、RFIDチップを走査するモジュール群で構成されている。最新のゲーム用RFIDチップは、13.56MHzの電波で通信を行う。保存できるデータの量は10Kビット以上である。このシステムでは、ゲーム中に、プレーヤーの賭け金をリーダーで検出して記録しておく。そして、プレーヤーごとの賭けパターンを算出し、ディーラーの仕事ぶりを把握し、1時間ごとに各プレーヤーの賭けの状況を記録する。さらに、賭け金の平均値や勝敗などの記録が自動的に更新される。
テーブルゲームの自動化に適したRFIDベースのゲームトークン(プレーヤーによる行為の対象となるもの。カジノのチップなど)を供給する企業もある。例えば、米Gaming Partners International社はRFIDを利用したゲームトークン「Safechip by Bourgogne et Grasset」を販売している(写真4)。
■図書館での活用
従来、バーコードを使っていた分野にもRFID技術は入り込みつつある。例えば、図書館では、バーコードの代わりにRFIDタグを使い始めたところがある。同タグにより、書籍の題名や概要、データベース情報などを識別するのである。
RFIDの利点としては、以下のような事柄が挙げられる。
こうした利点が図書館での用途に適している。
また、RFIDを利用して、図書館の外に不正に書籍が持ち出されるのを防ぐことも可能である。将来は貸し出し手続きを簡素化し、利用者が自分でチェックアウトして書籍を借りられるようになるだろう。
シリコンベースのトランスポンダを必要としないRFIDタグもある。この種のRFIDタグを、すでにいくつかの企業が発表している。例えば、印刷文書、あるいはパッケージ材料に繊維状のアルミニウムを埋め込んでタグとして機能させるといったものなどがある。アルミ繊維がリーダーからの信号を反射し、応答を返す仕組みだ。
磁性の強さが異なる化学粒子を利用したタグもある。まず、リーダーが送信した電磁波が化学粒子を活性化し、化学粒子は特定の信号を放射する。その放射された信号をリーダーが受信して、バイナリデータに変換する仕組みだ。70種類ほどの化学物質を使い、商品に埋め込まれた化学物質の組成の違いによって、商品固有のバイナリデータを読み取ることができる。
このほかに、特殊なインクジェットプリンタを使う方法がある。インクジェットプリンタによって、商品本体またはパッケージにトランスポンダ回路とアンテナを塗布してリーダーで読み取り可能にするというものである。RFIDリーダーとバーコードリーダーの両方で読み取り可能なタグを実現することもできる。
一般消費者がRFIDを利用できるようにするには、設計技術者が1つ重視しなければならないことがある。それは、プライバシーの確保である。消費者に気付かれることなく、RFID技術を利用したスマートカードやキーホルダー、パスポートなどに含まれる情報をリーダーによって読み取ることができるからだ。
衣服やアクセサリなどがRFID技術によって追跡可能になったとしよう。そうすると、例えば衣服に装着されているタグから情報を読み取ることで、顧客の購買傾向を把握できてしまう。商品を1つずつ個別に認識できれば、ソフトウエアによる解析を行うことで、顧客がその商品をいつどこで購入したのか(あるいは盗んだのか)といったことまで知ることが可能になる。RFIDタグのデータと顧客情報ファイルを照合することで、個人の好みに合わせたマーケティング活動を容易に実行できるようになるのだ。
確かに、RFID技術は広く利用されるようになった。しかし、その能力を完全に活用しているというレベルにはまだ達していない。RFID技術の普及を願うグループからは、「将来、消費者が小売店またはスーパーマーケットに入り、買い物袋に商品を詰めて、レジを通ることなく店舗を出られるようになる」という予測をしばしば聞かされる。商品に付いているタグをリーダーが走査し、消費者が所持しているクレジットカード(RFIDタグ機能付き)を使って代金を請求してくれるという仕組みである。
組み込みシステムの設計者向けに、新しいツールやコンポーネントが続々と登場していることから、そのようなRFIDシステムは意外に早く実現されるかもしれない。
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