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差動配線における原則Signal Integrity

» 2009年03月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 米Agilent Technologies社の差動ネットワークアナライザには、動作、品質が最高レベルの差動結合系(差動リンク)が使用されている。この装置を使用すると、評価の対象とする回路(以下、評価回路)を伝搬する差動モード/同相モード(コモンモード)の信号波形を容易に計測できる。

 従来のネットワークアナライザでは、使用するポートは2個だけでよかった。つまり、評価回路に信号を入射するためのポートと、評価回路からの信号を受信するためのポートである。計測時には、一方のポートから標準試験信号を入射し、他方のポートで信号を受信してそのレベルを計測する。このとき得られるゲイン(受信信号と入射信号の比)に対して計測系の損失分の補正を施した値が、評価回路の伝搬損失となる。

 この種の装置は、評価回路の入力インピーダンス/出力インピーダンスの計測にも使用できる。その場合、1つのポートから標準試験信号を入射し、評価回路からの反射成分を同じポートで受信してその信号のレベルを計測する。その際、反射の計測は接続ケーブルの遅延および損失から敏感に影響を受ける。そのため、インピーダンス(S11またはS22)の計測に際しては、ケーブルを精密に校正しておく必要がある。

 差動ネットワークアナライザも、動作の原理は同じだが、各差動ポートから差動モード/同相モードのいずれかの信号を個別に励振できる点が異なる。さらに、各ポートでは差動モードと同相モードを区別して計測するので、モード間の伝搬やモード変換を対象とする計測も可能になる。すなわち、差動‐差動伝送や差動モードから同相モードへの変換など、さまざまな現象に対する計測が非常に柔軟に行える。

 この種の計測器によって極めて正確な結果を得たいなら、計測器と評価回路とを接続するケーブルには最高の品質のものを使用すべきである。つまり、差動信号を最小限の劣化で伝送できるケーブルが必要になるということだ。それを踏まえてAgilent社の技術者が選定したケーブルは、どのようなものだったのだろうか。言い換えれば、20GHzを超える差動信号を高精度に伝送するには、どのような特殊な差動伝送ケーブルを選定すべきなのだろうか。

 実は、Agilent社製の差動ネットワークアナライザに使用されているケーブルは同軸ケーブルである。ポート1には2本のシングルエンドの同軸ケーブルを接続するという実に単純なものだ。ポート1からの差動信号は完全に独立しており、相互にカップリングがまったくなく、近接してもいない。このような2本の同軸ケーブルを経由して、評価回路に信号が伝送される。ポート2にも2本の同軸ケーブルが使用され、計4本の同軸ケーブルを使うことになる。

 同軸ケーブルは正確な対称性を有する。また、完全にシールドされており、損失も非常に小さい。こうしたケーブルを使用するシステムの性能は、ケーブルが密に結合していることによってではなく、完全に対称であることによって決まる。この計測系を構築したエンジニアは、何が必要なのかをきちんと理解していた。すなわち、良好な差動結合を実現するために、必ずしも密結合の信号系は必要ないということである。

 上述したのと同じ理屈がプリント配線板の設計にも応用できる。つまり、差動結合系を構成する際に、各信号配線の近接配置が不可欠であるとは言えない。各配線が直近の基準面に対して対称性を有し、かつ正確に同じ長さであれば、良好な差動動作が得られる。

 プリント配線板の実装密度を高めることが最大の要求事項であるならば、各差動ペア配線を近接配置することには意味がある。近接配置により実装面積を減らせるからだ。また、そうすることで、一般的に言われているEMI(電磁波干渉)やコモンモードノイズへの耐性も得られやすくなる。しかし、そのためには、まず線路の差動インピーダンスを正確な値に設定するためにパターン幅を修正しなければならない。さらに、幅が狭く薄いプリント配線の製造バラツキを考慮することも不可欠となる。

 これに対し、実装密度に気を使わなくてもよい場合には、十分に帰路面を確保し、差動でない配線と同じように設計して配線間隔を十分に広くとればよい。さらに、ほかの配線との間隔を広くしてクロストークの問題が生じないようにする。また、差動配線の途中で基準面が変わったり、パッケージやコネクタを経由したりする場合には、2本の配線が信号の受信端から見てスキューが生じないよう、電気的な意味で対称に並べることに注意しなければならない。

 上述したようなことに配慮して設計された基板パターンは、Agilent社の差動インターフェースほどの特性は得られないかもしれないが、プリント配線板に用いられる差動伝送系の配線としては十分に機能するだろう。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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