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「汗」が引き起こした湿度の問題Tales from the Cube

異常な頻度でエラーが発生していた医療機器。その原因は、何と汗だった。

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[Richard Rice,EDN]

 かなり以前の話になるが、筆者がある医療機器メーカーの上級エンジニアを務めていたときのことである。そのメーカーは不整脈などの病状の診断に使用される医療機器を開発/製造していた。筆者に与えられた最初の任務は、ホルター(Holter)記録計に異常な頻度で発生する故障の原因を解明して修理することだった。ホルター記録計は、1961年に米国の生物物理学者であるNorman Holter博士によって発明された。患者の胸に電極を付けて、心電図の波形を記録するというものである。この機器を使用すれば、24〜48時間にわたって記録をとることができる。それにより、1日のうちのごく短時間にしか起こらない心電図の異常や、睡眠中、仕事中といった特定の状態に付随してしか起こらないような心電図の異常を検出することが可能になる。

 調査を始めてすぐにわかったことだが、状況は非常に悪かった。故障原因の追究/修理に用いるために、顧客から心電図の記録波形が送られてきたのだが、その波形から不具合の状況を診断するのは非常に困難であった。というのも、その波形は、記録紙の幅いっぱいにわたって変動するほどのノイズにまみれ、しかも、それが時には数時間分も続くような代物であったからだ。

 筆者は、1〜2週間かけて回路図をチェックした。同時に、解決の手掛かりを提供してくれそうな人を見つけて議論を行った。そうした結果を踏まえ、筆者は環境試験を行うことにした。これが正解だった。多湿環境での試験によって、故障の状況が再現できたのである。

 実は、この結果は予期していたとおりのことであった。実際、この機器の実使用時の状況は次のようなものだった。まず、この機器を利用する患者が、記録用プローブを身に付けて、ベッドに入り、布団を掛けて就寝すると、プローブは患者の汗が原因で高い湿度にさらされることになる。また、患者が寒い屋外から暖かい部屋に入ると、汗が吹き出して、プローブの基板表面に水滴が生じていたのである。試験の結果、多湿環境では5台のうち2台の割合で故障が発生していた。また、基板表面に水滴が付いた場合には100%故障するようであった。大半の製品は、乾燥させると故障が直り正常に動作するようになるのだが、一部の製品は回復することはなかった。

 さらに調査を続けるとともに、技術研究所の化学の専門家と議論を重ねた。その結果、一連の結論が得られた。それは次のようなことである。多湿環境では、基板表面に付着した吸湿性の汚れが空気中の水分を吸収し、基板パターン間隙の導電率を高くする。そこにリーク電流が流れることにより、金属イオンが移動して、電気メッキと同様の現象が生じる。それに伴って、パターン間を短絡させる枝状のパスが形成される。そのパスは非常に微小であるため、電流量が増えるとヒューズと同様に断絶する。このようにしてリーク電流が断続すると、心電図の波形にノイズが重畳する。基板の表面は正常に保たなければならないが、それだけでは表面に生じる水滴に対しては十分ではなかった。表面の水滴は空気中の二酸化炭素を吸収し、導電性の炭酸塩を形成するからである。

 こうした一連の現象への対策方法は、基板表面の清浄化、乾燥、および表面の凹凸にもなじむ吸湿防止材料で全体をコーティングすることであった。これらの対策を行うには工程の変更が必要であったため、その決定までには多くの苦労があった。だが、いったん決定が下されると技術者たちの動きは早かった。週末を返上し、月曜日の朝までに脱イオン純水発生器と食器洗浄器を利用して基板を洗浄する装置を組み上げた。その装置と、スーパマーケットで購入した電気オーブン、さらにはコーティング用機器を使うことで、対策を施すことができた。

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