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歪ゲージの落とし穴正しい測定結果を得るためのポイントをつかむ(3/3 ページ)

» 2009年09月01日 03時03分 公開
[Paul Rako,EDN]
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複雑を極める歪ゲージ測定

 歪ゲージを使った歪測定にはコストがかかる。歪ゲージ自体は安価だが、ゲージの設置および特性評価、結果を記録するための回路とテスト機器が高くつくのである。このため、自分で回路を設計するよりも、歪ゲージ調整システムを購入するほうが安上がりな場合が多い。

 なぜ、歪ゲージに関連する機器/装置は複雑で高価なのだろうか。その理由を知るには、まず歪の性質を理解しなくてはならない。歪ゲージの抵抗値の百万分の1の変化をマイクロストレインと呼ぶ。Vishay社のRummage氏は、「長さ15.8マイル(約25.4km)のロープで説明してみよう。このロープが均一に引張力を受けて1インチ(約2.5cm)伸びたとする。このとき、1マイクロストレインの歪が発生したことになる。歪ゲージを設置する際は、よほど慎重に表面を整えなければ、百万分の1の精度は得られないことがわかるはずだ」と説明する。経験の浅いエンジニアや大学の研究者の中には、歪ゲージにおける抵抗値の変化をオームメーターで測定しようと考える者もいるかもしれないが、それによって得られたデータが使いものにならないことは明らかである。

■ブリッジ回路の構成

 センサー機器では、歪の変化を増幅するために、歪ゲージを1つの抵抗として用いるホイートストンブリッジを利用する。ホイートストンブリッジは、4個の抵抗によって誤差を相殺し、歪の変化量を表す出力を、センサー機器に扱えるようなパーセントレベルの変化になるよう増幅する。ホイートストンブリッジを構成する4個の抵抗として、4個の歪ゲージを適切な向きに配置すれば、信号の振幅と感度を4倍にすることができる。

 抵抗値の変化を把握するためには、ACまたはDC励起電圧を持つブリッジ回路を用いる。AC電源のほうが、金属箔にはんだ付けするゲージリードの熱電対効果の影響を除去できるなど、いくつかの面で利点がある。熱電対の電位は、ブリッジ電圧が変化するときには変化しないため、同期復調によってAC信号からDC値を得るときにDC誤差として除去することができる。

 オペアンプが進歩したことから、測定のために必ずしも4個の歪ゲージを用いたフルブリッジは必要ではなくなった。代わりにクオータブリッジ構成をとることができる。クオータブリッジは、1つの歪ゲージと3つの受動抵抗から成る。

 あるいは、1つの端子に2つの歪ゲージをつなぐハーフブリッジ構成を使用することもできる。この方法により、歪ゲージの温度係数が相殺される。また、その際には同じ温度係数を持つ2つの受動抵抗を用いる。この構成であれば、ゲージと受動抵抗の温度係数がレシオメトリックであり、互いに相殺される。複数のアンプを使用すれば、1つのゲージでも歪を測定することができる。余っている2つ目のゲージは受動抵抗として使用すればよい。ただし、この場合は2つの歪ゲージの温度が等しくなければならない。

■熱膨張係数への対応

  歪ゲージの材料が持つ温度係数を相殺することは重要だが、より基本的な温度補償の問題にも対処する必要がある。それは、測定の対象となる材料が熱膨張係数を持っているということである。つまり、加熱すると材料は膨張し、それに接着した歪ゲージも共に膨張して誤った結果を出力する。こうして、材料に歪がなくても、歪が生じていると判断されることになる。

  この問題を回避するには、被測定材料と同じ温度膨張係数を持つゲージ材料を選択する必要がある。ゲージメーカーは、さまざまな温度膨張係数のゲージ材を取りそろえている。なお、カーボンファイバなどの異方性の材料では、熱膨張係数は方向によって異なる場合がある。

■周囲の環境

 National Instruments社の市場開発マネジャを務めるDavid Potter氏は、「歪ゲージにおける抵抗値の変化はかなり小さい。そのため、それに伴う電圧の変化も同様に微小だ。ゲージを接着する個所や周囲の環境、配線の長さによっては、S/N比(信号対雑音比)が非常に小さくなる場合がある」と述べる。例えば、作業員が近くで携帯電話機を使用すると、原因不明の異常な測定結果が得られる可能性がある。対処法としては、「配線シールドをアンプ側でグラウンドに接続し、部品側ではオープンにしておくとよい。これが最も一般的な方法だ」(Vishay社のRummage氏)という。さらに、同氏は「回路にノイズがある場合は、部品側でグラウンドにつなぎ、アンプ側で配線シールドをオープンにするとよい」と説明する。

 ゲージの設置と選択に加え、測定においてはすべての変数の制御が必要である。アンプに接続するゲージを選択したら、測定環境を制御できるようにするか、少なくとも良いデータが得られるよう環境についての実験を行う必要がある。その際は、歪ゲージとアンプの両方が、規定された動作温度範囲内にあるようにする。

測定精度を保つには

写真5 National Instruments社の歪ゲージアンプ(提供:National Instruments社) 写真5 National Instruments社の歪ゲージアンプ(提供:National Instruments社) 

 ここまでに述べたことから、なぜ歪ゲージに関連する機器/装置が高価で特殊な機器なのかが理解できるだろう。歪ゲージアンプに分類される機器は、ブリッジ回路の構成や電圧の印加、オフセットヌル調整、微弱な信号の測定、ノイズの除去といったすべての機能を備えている(写真5)。さらには、A-D変換におけるアンチエイリアスフィルタの役割を果たし、信号パスに入るノイズの影響を抑えるために出力をバッファする役割も担う。高度なものになると、シャントレンジのキャリブレーションや遠隔検知の機能も備え、対になったリード線によりブリッジ回路の電圧を正確に制御することもできる。歪ゲージアンプによりACブリッジを励起するようになっているなら、AC信号をDC信号に復調する機能も備えているはずだ。

 どれほど注意を払っていても、さまざまな個所で誤差と非線形性が生じて、測定精度が低下する可能性はゼロにはならない。だが、キャリブレーションを頻繁に実行すれば測定精度を保つことは可能である。歪ゲージの測定値を高価なロードセルとNIST認可のアンプで検証できるならば、温度や湿度など被測定材料に影響を及ぼす可能性の高い条件を変化させて、測定を実施することができる。データが得られれば、歪ゲージによる生の測定値を、米The MathWorks社の「MATLAB」やNational Instruments社の「LabVIEW」といったソフトウエアで補正することが可能になる。測定前と測定後に、キャリブレーションによって、ゲージや接着剤、被測定部品が破損していないことを確認することが大切なのである。キャリブレーションにより、箔ゲージの横感度など、ほとんどの2次的、3次的影響は除去される。横感度が生じるのは、箔ゲージが直交方向の歪をすべて除去していないからである。

時にはプロの手を借りる

図1 歪ゲージを利用した測定回路例(提供:Linear Technology社) 図1 歪ゲージを利用した測定回路例(提供:Linear Technology社) この回路により、0.01ポンド(約4.5g)未満の精度で体重を測定することができる。心拍数の検知も行える。

 米Linear Technology社と米Analog Devices社は、それぞれ自分でブリッジ励起/増幅回路を設計しようと考えるエンジニア向けの文献を提供している(図1*5)、*6)。歪ゲージを必要とする製品をどうしても低コストで実現しなければならないなら、自分で回路を設計してもよいだろう。大事なのは、まず適切なゲージ材料と種類を選択することだ。そして、フルブリッジ、ハーフブリッジ、クオータブリッジのいずれを使用するのかを決定し、正しい接着位置とエポキシ系接着剤を選択する。さらに、測定を無意味なものにしかねない拘束応力に注意する。そこまで確認したら、歪ゲージからの信号をアンプへ入力する。可能であれば、測定に用いる配線は、コネクタは使わずはんだ付けしてほしい。特に、金めっきされていないコネクタを使うと、測定に大きな誤差が生じてしまう。高精度のテスト機器を使用し、ブリッジ回路の設計を確認することも重要だ。加えて、システムを頻繁にキャリブレーションする仕組みも設けておきたい。

 歪測定を利用する製品を設計する場合の注意点はざっと言えば以上のようなことになる。ただ、このようなケースとは異なり、何らかの製品を開発する上で実験的に歪測定が必要になるというケースについては、高い専門技術を有す企業の力を借りるべきだ。例えば、OMEGADYNE社、Vishay社、National Instruments社などである。ゲージの選択や設置の面で手を抜くと、テスト器具や回路がどんなに優れていても意味がないことを覚えておいてほしい。

 電気エンジニアと機械エンジニアの両者が、コンピュータシミュレーションに無駄な労力を費やしていることは明らかである。コンピュータには誤りがないと信じているからだ。シミュレーションは正確だと信じて疑わないFEAエンジニアもいるが、部品の拘束応力やシミュレーションにおけるメッシュの選択エラーによって、結果に誤りが生じることがある。Vishay社のRummage氏は、「多くの人が、FEAによって歪の方向と大きさがわかると100%信じ込んで、その結果裏切られる。FEAは単に仮定にすぎないことを忘れないでほしい」と述べる。

 慎重に測定を実施し、歪測定のすべての側面を理解すれば、シミュレーションの結果をうのみにすることはなくなるだろう。


脚注

※5…Williams, Jim, "Bridge Circuits: Marrying Gain and Balance," Linear Technology Corp, Application Note 43, June 1990

※6…Kester, Walt, "Practical design techniques for sensor signal conditioning," Analog Devices Corp, 1999


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