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受信信号の歪Signal Integrity

» 2009年10月01日 18時29分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 図1に、2種類の一般的な伝送ラインの構成を示した。(a)は直列終端(Series Termination)であり、(b)は遠端終端(End Termination)である。ドライバはいずれも高速なもので、直列出力抵抗が無視でき、容量負荷はCMOSレシーバの入力容量に相当するとしよう。


図1 配線パターンの一般的な終端方法 図1 配線パターンの一般的な終端方法 (a)は直列終端、(b)は遠端終端。いずれの方法でも、受信信号に歪が生じる。

 図1(a)の直列終端では、ドライバから送出された信号のエッジは右に向かって進む。そして、負荷の影響を受けて、反射波がドライバの方向に向かって進む。容量性負荷に対しては複雑な反射が生じ、受信信号に歪(ひずみ)が生じることになるが、負荷端からの反射波はいずれもドライバの位置にある終端(整合抵抗)に到達すると吸収される。そのため、レシーバが受け取る波形は1つの信号エッジだけとなり、歪は長く尾を引くようなものにはならない。

 図1(a)、(b)の右側に示したのは、各終端方法においてCMOSレシーバの入力部で見た等価回路である。この回路により、レシーバが受け取る瞬時信号の歪特性が決まる。いずれの等価回路も、2つの要素から構成されている。1つは直列抵抗であり、これは線路インピーダンスに等しい。もう1つはシャントコンデンサであり、CMOSレシーバの入力インピーダンスに相当する。これらの要素によりRCローパスフィルタが構成され、信号の立ち上がりが遅くなる。加えて、フィルタの群遅延(Group Delay)に等しい時間だけ、信号の到着時間が遅れる。この遅れは、直列終端の場合にはZ0CINに相当する。

 元の信号の立ち上がり/降下時間がZ0CINよりも十分に短い場合、フィルタを通過することによる信号エッジの変化は、フィルタのステップ応答と同等になる。一方、元の信号の立ち上がり/降下時間がZ0CINに比べて長い場合には、フィルタの影響はほとんど現われない。ただし、詳細に見れば、フィルタの影響によって信号レベルの中間点の到着時間がZ0CINだけ遅れているはずだ。

 図1(b)の遠端終端では、伝送ラインと遠端終端抵抗とが並列で容量負荷を駆動する。遠端終端抵抗の値が正しくZ0になるよう設定すれば、並列接続した抵抗の値(インピーダンス)はZ0以下になる。従って、負荷応答は直列終端の場合よりも高速になり、歪が少なくなる。

 プリント基板の配線パターンによる伝搬遅延が信号の立ち上がり/降下時間よりも長い場合、パターンを遠端から見た実効インピーダンスは、立ち上がり/降下時間に相当するインピーダンスとして評価すればよく、値はZ0となる。この場合、容量を駆動する抵抗は、線路と終端抵抗の並列インピーダンスである1/2Z0となる。従って、RCフィルタの時定数は1/2Z0CINとなり、直列終端の場合の1/2になる。一方、パターンによる伝搬遅延が信号の立ち上がり/降下時間より短い場合には、パターン遠端から見た実効インピーダンスと時定数はより小さい値になる。

 遠端終端のメリットは、高速応答性を有することである。一方、デメリットは、容量性負荷に対する終端整合特性が劣化する点だ。終端条件が劣化すると、入射信号のエッジの反射としてパルスが生成され、それがドライバ方向に進む。ドライバ側は終端されていないので、そこでパルスが2回目の反射を受ける。結果として、レシーバにはエッジが歪んだ最初の信号波形が入射し、その後に、反射されてきた低レベルの短パルスが1往復分だけ遅れて入射することになる。

 信号のタイミングの正確さを最重要事項とする場合には、遠端終端を利用することで、負荷容量の変化に対する立ち上がり時間のバラツキとタイミングの変動を最小化することができる。ただし、そのような応答特性の代償として、遠端終端では往復時間分遅れた反射波によって、後続ビットの信号の受け渡しが妨害される恐れがある。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。



脚注

※1…『駆動点インピーダンス』(Howard Johnson、EDN Japan 2009年9月号、p.22)


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