一般に、サレンキー型ローパスフィルタでは、阻止帯域内にゲインが上昇する部分があることが知られている。その部分では、フィルタリングの効果が低下し、信号をリークしてしまう可能性がある。本稿では、ボルテージフォロワ回路を1つ追加する構成により、この阻止帯域におけるリークを緩和する手法を紹介する。
サレンキー(Sallen-Key)型のローパスフィルタは、VCVS(電圧制御電圧源)型の回路である(図1)。そして、VCVS型のフィルタでは、その構成要素であるオペアンプの出力インピーダンスとフィルタ入力の相互作用によって、阻止帯域の性能が低下してしまうことが知られている。
オペアンプの出力インピーダンスが0であると仮定すると、理論上、阻止帯域におけるゲイン(増幅度)は周波数の上昇に伴って無限に低下することになる。しかし、実際のサレンキー型フィルタでは、阻止帯域内にゲインが上昇する部分(以下、ピーキング)が発生する(図2)。これが、阻止帯域におけるフィルタ性能を低下させる原因となる。すなわち、サレンキー型フィルタでは、本来は信号を阻止するはずの帯域において、ピーキングの部分にある信号をリークしてしまう(通過させてしまう)可能性があるということだ。
阻止帯域のピーキングは、図1のコンデンサC1に対する注入電流の影響によるものである。この注入電流は、出力インピーダンスと関連して電圧降下の原因になる。出力インピーダンスは、オペアンプの周波数に対する開ループゲインに反比例する。言い換えれば、オペアンプの出力インピーダンスは周波数が高いほど増加するので、周波数が高くなるに連れて、コンデンサC1への注入電流によって生じる電圧降下の影響も大きくなる。
阻止帯域のピーキングの大まかな形状は、図1の回路を図3のような等価回路に置き換えることで推測することができる。図3の回路の出力は、おおまかに2つの回路要素の出力から構成されると考えることができる。1つは、出力インピーダンスを持たないフォワードパス回路からのみの応答出力である(図4(a))。もう1つは、このフォワードパス回路の影響を受けない、出力インピーダンスとコンデンサC1への注入電流により変動する出力である(図4(b))。そして、これら2つの出力の周波数‐ゲイン特性を組み合わせることによって、サレンキー型フィルタの阻止帯域の特性の近似曲線を得ることができる(図4(c))。
上述したピーキングへの簡単な対処法の1つに、注入電流と出力インピーダンスの間の干渉をなくす方法がある。これは、回路のフィードバックパスに、1つのオペアンプを用いたごく一般的なボルテージフォロワ回路(以下、ボルテージフォロワ)を追加することによって実現できる(図5)。
ボルテージフォロワを追加することにより、さらに広い周波数範囲で良好な阻止帯域特性が得られるようになる。ボルテージフォロワを追加すると、C1への注入電流と出力インピーダンスに起因する電圧降下の影響を軽減することができる。
なお、オペアンプA2の出力インピーダンスにより電圧降下が生じる。しかし、これはフィルタ回路の出力には直接影響を及ぼさない。
このボルテージフォロワで用いるオペアンプは、どのような特性のものであればよいのか考察してみよう。フィードバックパスの影響は、フィルタの周波数応答におけるブレークポイント(0dB以下に減衰を始める周波数)付近で現れ始める。通過帯域では、オペアンプのAC特性はそれほど重要ではない。追加するボルテージフォロワには、できるだけ広い範囲で阻止帯域が単調に減衰するよう、低コストの広帯域アンプを用いるとよい。なお、C1により直流成分のフィードバックは遮断されるため、オペアンプのDCオフセットは重要ではない。
この手法を用いるかどうかは、必要とされる性能の要件と設計に利用できるオプションについて考慮し、どの程度の効果が得られるかによって判断する。場合によっては、サレンキー型ではなく、多重帰還型など、別の構成のフィルタを用いたほうがよいケースもあるからだ。
例えば、フィルタに用いるオペアンプが電流帰還型のものである場合には、非反転構成を用いる必要がある。電流帰還型オペアンプを使用する場合には、多重帰還型のフィルタ構成をとることはできないため、非反転構成のVCVSフィルタとするのが適切である。その上で阻止帯域のリーク問題を解決するために、上述した手法を適用するとよい。
なお、出力インピーダンスの影響は、本質的に誘導性である。つまり、周波数が高い領域で増加する。ボルテージフォロワの追加によって阻止帯域のリークは劇的に改善されるが、より高い周波数ではやはりリークが生じる。その主な原因は、オペアンプA1の出力への電流パスとなるA1のコモンモード容量である。
この容量について詳細に解析すると、どこでピーキングが生じるかを予測するための簡単なモデルが得られる。このモデルを用いた解析手法は、図3の等価回路を用いた手法と似たようなイメージでとらえることができる。
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