米Synopsys社のシステムレベルソリューション担当製品マーケティングディレクタを務めるFrank Schirrmeister氏は、「ソフトウエアによって、ハードウエアの差異化を図る時代が到来したことが最大の課題だ」と語る。半導体製造プロセスが22nmにまで微細化するのに伴い、ソフトウエアの開発コストは開発コスト全体の70%以上を占めるようになるとも言われている。同氏は、トルコのIBS Research and Consultancy社による調査結果を引用し、「180nmのノードでは、ソフトウエアの開発コストは全開発コストの20%未満だった」と述べる。また、Synopsys社独自の調査からも、ソフトウエアの開発コストの増加傾向がうかがえる。その結果、設計者は、例えばテストベンチの実行によってハードウエアを検証できるよう、設計に組み込みプロセッサを盛り込むようになっている。
Synopsys社は、さまざまなシステムレベル設計ツールを提供している。IPコアライブラリの「DesignWare」をはじめ、アルゴリズム/メカトロニクス/システムシミュレーション向けの「Saber」、高レベルDSPの設計/検証向けの「System Studio」、組み込みソフトウエアの仮想プロトタイピング向けの「Innovator」、仮想プラットフォームを開発するための「DesignWare System-Level Library」、ラピッドプロトタイピング向けの「Confirma」など、システムレベルの設計/検証ツールが用意されている(図2)。
Synopsys社のDSPアルゴリズム開発関連の製品は、HDLコードのインポート機能とSystemCコードのエクスポート機能により検証の効率を高め、シミュレーション性能を最大限に引き上げる。System Studioは、実行可能なテストベンチを用いて、アルゴリズムの最適化と検証をサポートする。また、DesignWare System-Level LibraryとInnovatorを併用することで、ソフトウエアの早期開発や、SystemCベースの設計の品質向上が可能になる。
同社の最新ツールの1つに、高位合成ツールの「Synphony HLS(High Level Solution)」がある。これは、MATLABのM言語で記述したコードをRTLコードに自動変換するというものだ。
米Carbon Design Systems社は、サイクル精度IPのモデリングを専門としている。SoCの仮想プロトタイピングをターゲットとしており、ハードウエアおよびソフトウエア設計のプリシリコン検証サービスを提供している。
同社は、VHDL/Verilog HDLで記述されたRTLコードを読み込み、多くの仮想プラットフォームにリンク可能なモデルを生成するコンパイラを提供している*3)。具体的には、「Carbon SoC Designer」、Synopsys社の「CoWare Platform Architect」、標準化団体のOSCI(Open SystemC Initiative)が提供するSystemCのプラットフォームなどに対応する。C言語などで記述されたサイクル精度モデルはRTLコードの内容を表す。設計者は、RTLコードを基に、コンパイルによって同モデルを手にするわけだ。RTLコードと同等の性能が得られないビヘイビア(動作)の記述から得たモデルよりも、SoCの検証に適している。
Carbon社のビジネス開発担当バイスプレジデントを務めるBill Neifert氏によると、同社は最近、英ARM社、米MIPS Technologies社と共同で、ますます複雑になるプロセッサ向けのサイクル精度モデルの開発に取り組んでいるという。同氏は、「ARM社が開発するプロセッサがますます高度になるに連れ、サイクル精度モデルを手作業で記述することが(ARM社にとって)かなりの負担になってきていた。サイクル精度モデルを作成するのも、実際の設計向けにRTLコードを記述するのも、負担は同程度であることがわかった」と説明する。その結果、ARM社は1年半以上前に、手作業での記述をやめた。Neifert氏は、「そのとき、ARM社に、われわれ(Carbon社)はすでにモデル作成の問題を解決済みであることを伝えた」と語る。Carbon社は2008年、ARM社IP向けのモデル生成を行うARM社のツール「SoC Designer」を買収した。同ツールを用いることにより、RTLベースのARM社IP向けに100%精度のモデルを生成することが可能である。同ツールは、デバッガやプログラムローダーなどの機能も搭載している。
また、サイクル精度モデルに関して同様の問題に直面していたMIPS社も、同じ方法を採用することに決めたという。ただしMIPS社は、同社のプロセッサコアである「M14K」や「M14Kc」などのIPに対して、顧客向けに独自のサイクル精度モデルを生成するためにCarbon社の技術を採用するとしている。
Carbon社の技術を採用するのは、ARM社やMIPS社などのようなIP企業だけではない。2009年11月には、省エネルギーコンピュータ技術や通信技術を専門とする米Applied Micro Circuits(AppliedMicro)社が、Carbon社の「Carbon Model Studio」を採用すると発表した。同ツールは、RTLコードから、高速シミュレーションが可能なサイクル精度のハードウエアモデルを自動生成するというものである。AppliedMicro社は、同ツールを導入することで、SoCのプリシリコン/ポストシリコンのソフトウエア開発、性能解析、検証に用いるSystemCベースの仮想プラットフォームの展開を加速させたいとしている。
※3…Bollaert, Thomas, "SystemC, Ten Years Later…," Mentor Graphics Corp, Nov 17, 2009, http://www.mentor.com/products/esl/blog/post/systemc-ten-years-later--be383cde-6b14-4052-b4bb-5a1a61224a74
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