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SPICEにおけるビヘイビア型ソースの活用法Design Ideas

» 2010年06月01日 00時00分 公開
[William H Morong,EDN]

 SPICEシミュレータで利用される電圧源/電流源には次の3種類がある。独立型、制御型、ビヘイビア型の3つだ。


図1 SPICEシミュレーションで使用される電圧源(独立型、制御型) 図1 SPICEシミュレーションで使用される電圧源(独立型、制御型) 独立型電圧源のV1は直流5Vを出力する(a)。(b)において、独立型電圧源のV2が、ピーク電圧が1Vの正弦波信号を出力すると、それを受けた制御型電圧源E1はピーク電圧が100Vの正弦波信号を出力する。

 独立型の電圧源/電流源(以下、両者の総称をソースと表記する)は、2本の端子を持ち、設定した定数によって決まる電圧または電流を出力する。その動作は、電源装置などが設定値どおりの電圧や電流を出力するのと同様である。このタイプのソースでは、信号発生器と同様に、任意の波形の電圧/電流を出力することもできる。図1(a)に示したのは、独立型の電圧源の例である。この場合、電圧源V1は直流の5Vを出力する。

 一方、図1(b)の電圧源E1は制御型の一例である。このタイプのソースは、少なくとも4本の端子を備える。そのうちの1組が電圧/電流を出力する端子となる。残りの1組は入力用端子であり、別の入力源回路の2つの端子と並列または直列に接続される。ソースの出力値は、入力端子に掛かる電圧、あるいは入力端子に流れる電流に依存して決まる。言い換えると、出力は入力に対して一定の線形性を持つ。例えば、E1は、数式として定数100が設定されているので、ゲイン100の理想的アンプ回路として働く。ここでは、独立型電圧源V2が、ピークツーピークが1Vの正弦波信号を出力するものとしよう。この場合、V2、E1の組み合わせにより、電圧制御電圧源が構成されていることになる。すなわち、E1はV2からの正弦波信号電圧による制御によって、ピーク電圧が100Vの正弦波信号を出力するということだ。なお、制御型のソースの中には入力端子が複数組になるものもある。

 ビヘイビア型(任意型)のソースは、ほかのものと比べて利用されるケースが少ない。しかし、実はこれが最も便利なソースである。このタイプのソースは、1組の出力端子しか備えていないが、その機能は独立型/制御型のソースと比べて強力である。ビヘイビア型のソースには、関数電卓で利用できるのとほぼ同等レベルの数学関数を組み込むことができるからだ。もちろん、独立型や制御型と同様の出力を得ることも可能である。最も単純な使用法としては、ビヘイビア型電圧源として「V=5」と設定すれば、独立型電圧源と同じように直流5Vの電圧が出力される。

図2 SPICEシミュレーションで使用される電圧源(ビヘイビア型) 図2 SPICEシミュレーションで使用される電圧源(ビヘイビア型) ビヘイビア型電圧源B1からの出力OUT1は、抵抗端INの電圧VINを100倍増幅したものとなる。

 また、ビヘイビア型のソースを用いれば、シミュレーション回路内の任意のポイントで、設定した電圧/電流出力を得ることができる。例えば、図2に示すビヘイビア型電圧源B1の動作は端子INの電圧VINに依存し、数式V=100×VINで決まる。すなわち、B1の出力OUT1は、抵抗R1の端子電圧VINを100倍増幅したものとなる。このように、図2のB1のようなビヘイビア型ソースは、制御型のソースと同様にも働く。ただし、制御型ソースの出力が入力端子−グラウンド間の関係によって決まるのに対し、ビヘイビア型ソースの出力は入力に対して純粋に数学的な関係になる。つまり、ビヘイビア型ソースは、その動作を数式によって規定したシミュレーション用の電子素子だということである。

図3 ビヘイビア型電圧源の使用例 図3 ビヘイビア型電圧源の使用例 ビヘイビア型電圧源B2は、入力端子INの電圧波形VINを増幅した後に半波整流する。ビヘイビア型電圧源B3は同じ電圧波形VINを増幅し、全波整流する。
図4 電圧源B2、B3からの出力波形例 図4 電圧源B2、B3からの出力波形例 B3の出力は、100V減算した状態で示してある。
図5 ビヘイビア型電流源を利用した3端子シャントレギュレータのモデル 図5 ビヘイビア型電流源を利用した3端子シャントレギュレータのモデル 
図6 図5のモデルの動作 図6 図5のモデルの動作 

 図3に示すB2、B3は、別のビヘイビア型電圧源の例である。B2の出力は「uramp(100×VIN)」という数式で定義してあり、一方のB3の出力は「abs(100×VIN)」と定義してあるとしよう。この場合、B2は電圧源V2のIN端子電圧VINを増幅した後に半波整流する。B3は同じ電圧VINを増幅し、全波整流して出力するという意味になる。これらの出力波形を図4に示す。

 ビヘイビア型ソースの概要をご理解いただいたところで、このソースの有用な活用例を紹介しよう。SPICEシミュレーションを行う際、アナログ機能ブロックをモデル化することがある。その場合、ABM(Analog Behavioral Models)がよく利用される。しかし、利用可能なABMが存在せず、自身でモデルを作成する必要に迫られることがある。そのような場合に、ビヘイビア型ソースを活用するとよい。例えば、ビヘイビア型の電流源を利用すれば、理想的な3端子シャントレギュレータを構成できる(図5)。

 図において、ビヘイビア型電流源B2には、「I=uramp(VFB−1.25)」という数式を定義してあるとする。これにより、ノードFBの電圧VFBが1.25Vを超える場合には1mA/mVの電流が出力される。この電流出力により、出力OUTの電圧VOUTは、図6に示すような理想的な5V出力の3端子シャントレギュレータの動作となる。この回路構成のより高度な使い方としては、フィードバックノードFBに、RCフィルタなどの機能を付加することが考えられる。

 以上のようにビヘイビア型のソースは、数学関数によって動作を定義する。そのため、実際の電子素子を用いた回路のシミュレーションに先立って、数学関数のレベルで正しく設計できていることを検証するのに役立つ。数学関数の記述が長くなる場合には、読みやすくするために、いくつかの小さいブロックに分割して、各ブロックを1つのビヘイビア型ソースとして構成することも可能だ。

 ビヘイビア型ソースで構成したモデルの動作は、あくまでも数学的に規定したものであって、実際の回路の動作とは異なる。SPICE上では、100万Vの電圧を使用し、完全に安全な超高圧電流源でも容易に構成できる。また、そのような電流源が何らかのミスによって偶然構成されることもある。一般に、SPICEシミュレーション全般において、ビヘイビア型ソースを利用する場合に重要なのは、現実に起こり得る条件を記述するということだ。SPICEシミュレーションでは、2個の抵抗の値を完全に同一とすることができる。しかし、現実には、そのような完全性を望むことはできないので注意されたい。

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