次世代パワーエレクトロニクス研究開発機構(以下、FUPET)は、『第19回シリコンカーバイド(SiC)及び関連ワイドギャップ半導体研究会』(2010年10月21日〜22日)において、20kW/l(リットル)のパワー密度を達成したフルSiCインバータを展示した(写真1)。
フルSiCインバータとは、ダイオードとパワーICの両方にSiCデバイスを用いたインバータのことである。FUPETが試作したフルSiCインバータの出力は10kWで、入力電圧は600V、出力電圧は400Vである。動作周波数は50kHz、力率は0.85。外形寸法は151mm×91mm×37mmであることから、インバータのパワー密度としては20kW/l(リットル)を達成している。FUPETは、2012年度末までの研究目標の1つとして、フルSiCインバータのパワー密度で20kW/lを達成することを挙げていた。「目標を前倒しで達成できたので、次はパワー密度40kW/lの達成を目標にしたい」(FUPET)という。
このフルSiCインバータは、一般的な3相インバータであり、3つの2in1タイプのパワーモジュール(写真2)から構成されている。パワーモジュールの仕様は、耐圧が1200V、定格の出力電流が30A、最大ジャンクション温度が200℃。外形寸法は41mm×40mm×37mmである。同モジュールは、米SemiSouth Laboratories社製のSiC-JFET(接合型電界効果トランジスタ)とSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を、それぞれ2直列×2並列の構成で4個ずつ搭載している。SiC-JFETとSiC-SBDのサイズは、それぞれ2.25mm×4mmと3.62mm角。なお、SiC-JFETはノーマリーオフ型である。
今回のフルSiCインバータとパワーモジュールを試作する上では、SiCデバイスの高温動作が可能であるという特徴に対応するために、高耐熱の基板、パッケージ、実装材料、部品を採用している。パワーモジュールでは、窒化シリコン(SiN)ベースのセラミック基板や、金ゲルマニウム(AuGe)系、金スズ(AuSn)系のはんだ材料を用いた。また、パワーモジュールを封止するポッティング用のシリコーン材料にはADEKAが開発した200℃対応品を採用している。モジュールのケース材も東レが開発した200℃対応のPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂を用いている。さらに、フルSiCインバータでは、平滑用のコンデンサとして米AVX社製のセラミックコンデンサを採用した。FUPETは、「通常のインバータでは、アルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサを用いる。しかし、フルSiCインバータは、200℃という高温での動作や、一般的なシリコン半導体を用いたインバータよりも高い動作周波数に対応できるものとするべきだ。そのために、セラミックコンデンサを採用した」と説明している。
(朴 尚洙)
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