電力線通信とは、データを伝送する媒体として電力線を使用する通信技術のことである。設計中の機器に電力線通信の機能を搭載したいと思えば、すでに10社以上の半導体メーカーから電力線通信用のICを調達することができる。ただし、適切なICを選択するには、電力線通信の特性や信頼性などについて理解を深める必要がある。そこで、本稿では、電力線通信機能を利用する上で必要になる基礎知識についてまとめる。
電力線通信(PLC:Power Line Communication)では、電力の供給とデータの伝送を1本の電力線ケーブルで行う。これは、配線を新たに追加することなく、すでに敷設してある電力線を用いて通信が行えるということを意味する。
このような特徴を備えていることから、電力線通信はさまざまな用途での利用が検討されている。例えば、次世代電力網(スマートグリッド)をはじめ、太陽光発電システムのモニタリング、照明の制御、充電中の電気自動車との通信、家庭内における映像データの配信などが挙げられる。
スマートグリッドなどの新たな省エネルギー技術では、電力を供給する側と消費する側との間で相互に情報をやりとりするための通信技術が必要とされる。そして、上述したように、PLCでは、通信のためにインフラを新規に構築する必要がない。また、無線通信技術で問題となる通信範囲に関する制約がなく、機器に搭載する際の容易さやコスト効率においても優れている。そのため、これらの省エネルギー技術の迅速な導入に役立つ技術としてPLCは世界中で注目されているのである。
一般にPLCの通信プロセスでは、まず送信器で信号を変調し、電力線を伝送路(媒体)として変調信号を送出する(図1)。そして、伝送路を挟んで送信器の反対側にある受信器で信号を受け取り、復調を行う。PLCの性能と信頼性に影響を与える要素としては次のようなものがある。
・送信信号の強度
・伝送路内のノイズ
・インピーダンス整合
・通信プロトコル
・受信器の感度
・異相間通信
以下では、これらの要素がPLCの通信にどのような影響を与えるのかについて順に説明していく。
送信信号の信号強度が大きいほど、伝送路上に大きな信号電力が生成される。また、ノイズによる信号強度の減衰も相対的に小さくなるので、より遠距離のデータ伝送が可能になる。ただし、通信ノードの消費電力は、伝送路に入力される信号電力に合わせて大きくなることにも留意すべきだろう。
PLC機能を備える機器の設計者は、送信器の信号強度をできるだけ大きくしたいと考えるはずだ。しかし、北米のFCC(連邦通信委員会:Federal Communications Commission)や欧州のCENELEC(欧州電気標準化委員会:Comité Européen de Normalisation Electrotechnique)のような組織は、PLCの送信信号強度について厳しい規制を設けている。これらの規制は、異なる周波数帯域を用いる通信信号が互いに影響し合わないように設定されている。
PLC用のICを選択する際には、機器の用途に見合った送信信号強度の要件を満たせるかどうかをチェックする必要がある。また、PLC用ICはFCCや CENELECが定めた仕様に適合していなければならない。理想的には、機器内部における信号の減衰量に基づいて信号強度を調整できるように、送信利得が設定可能なものがよい。さらに、FCCやCENELECの要件を満足する最大の送信信号強度を用いる場合には、PLCの機能を搭載する機器全体が許容できる消費電力についても確認しておく必要がある。
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