従来、LCDのバックライトには主に冷陰極蛍光ランプ(CCFL:Cold Cathode Fluorescent Lamp)が使用されていた。CCFLが広く用いられてきた理由としては、低価格で供給するメーカーが多かったことが挙げられる。しかし、CCFLは多くの点で理想的とは言い難いものだった。例えば、拡散板を置いているにもかかわらず、電源を入れてから動作が安定するまでの間に輝度にムラができる。この現象は年数を経たときにも見られるものである。また、ディスプレイ本体よりも動作寿命が短い、ディスプレイが厚くなる、消費電力が増加する、環境に有害で処分に費用がかかる、堅牢性や信頼性が低い、など数多くの問題が挙げられる。さらに、CCFLバックライトは常にオンの状態であるため、濃い黒を表示できないほか、光が偏光フィルタを通して漏れて、目に見えてしまうという欠点もある。
一部の分野では、バックライトとして白熱電球やELパネル(Electro Luminescent Panel:エレクトロルミネッセンスパネル)、熱陰極蛍光ランプ(HCFL:Hot Cathode Fluorescent Lamp)を採用している。これらのバックライトにも、それぞれに長所と短所がある。
こうした中、LEDバックライトがCCFLバックライトの後継として急速に普及している。当初、LEDは高価で、超小型ディスプレイ以外には導入できなかった。だが、多くのアプリケーションで採用が進んでいることもあり、価格が低下している。現在では、価格はそれほど大きな問題ではなくなった。それに加えて、LEDにはCCFLの短所をカバーできるというメリットもある。
LEDバックライトは順調に普及しているが、それ故、製品に紛らわしい名前を付けるメーカーもあるようだ。例えば、Samsung社は2009年半ば、英国の広告基準協会(Advertising Standards Authority)などの消費者支援団体が反対しているにもかかわらず、「LED TV」という名称の製品を発売し、現在も販売を続けている*8)。Samsung社のLED TVとは、ディスプレイにLEDを用いたテレビではなく、バックライトにLEDを用いているものだ。同社のほかにも、バックライトにLEDを用いたテレビを“LEDテレビ”と称して販売するメーカーは存在する。
第1世代のLEDバックライトは現在でも広く使用されている。その構造はCCFLに似ており、拡散板あるいは導光板によって多数の白色LEDの光を画面全体に広げる。LEDアレイの後部に配置された反射板は、光源の光をユーザー側に向けることによってバックライトの効率を高めている。基本的なLEDバックライトの設計では、LED素子はすべて同じ明るさになるよう制御される。
もう少し技術レベルの高いものとして、各LED素子の明るさを個別に制御(調光)するローカルディミング技術を使用する方法がある。これによってディスプレイのコントラスト比は大幅に向上したが、代わりに高い処理能力が要求され、その分、コストがディスプレイの価格に上乗せされることとなった。
LEDバックライトの発展に重要な次のステップが色域の拡大である。LEDを液晶パネルの直下に配置する直下型LEDバックライトでは、白色だけでなく、赤色、緑色、青色のLEDも利用する。ディスプレイメーカーは、3色LEDクラスタの各LEDの明るさを個別に制御することで、コントラスト比だけでなく、LCDが表現する色の範囲や忠実度の向上を実現している。一方、エッジライト型LEDバックライトでは、厚さと価格を重視している。同方式では、その名前が示すとおり、LEDアレイはディスプレイのふち(エッジ)に並べられ、導光板/拡散板によってLED素子の光をバックパネル全体に広げる。この構成では、コントラストと色を局所的に制御することはできない。その代わり、直下型に比べてディスプレイをやや薄くでき、価格を抑えられるというメリットがある。
続いて、LCDの画面表面について見てみよう。LCDでは、ノングレア(光沢がない)タイプのものに代わってグレア(光沢がある)タイプのものの割合が増えている。これを受け、かなりのコストをかけて、中古のノングレアタイプ品をグレアタイプに変える専門のメーカーも存在する。
ノングレアタイプのディスプレイは反射が少ないため、長時間使用する場合や屋外で使用する場合(ただし、この際バックライトは十分明るくなければならない)には、目に優しいかもしれない。また、ノングレアタイプは輝度とコントラストが低下すると主張する人がいる一方で、色の再現忠実度は高まると指摘する人もいる。
逆に、再現忠実度が低いと指摘する専門家もいるものの、グレアタイプの鮮やかさはゲームや映画の視聴においては好まれる場合が多く、人気が高いことも納得できる。ただし、グレアタイプは外光が強い環境下では、反射によってディスプレイが見えにくくなってしまう。
LCDの一般的なリフレッシュレートは60Hzである。だが、最近は120Hz、さらには240Hzのものも増えてきている。リフレッシュレートが 120Hz/240Hzであれば、24fps(フレーム/秒)で撮影される映画などでも、1フレームの表示時間を60Hzよりも均等に割り当てることができる。ほかにも、スポーツなど、動きの速いコンテンツで起こるジャダー(揺れ)を排除できるようになったり、家庭で3D映像が見られるようになったりすることがメリットとして挙げられる*9)。しかし、利用方法を誤ると、リフレッシュレートが低い前の機種よりも悪い結果を引き起こす可能性もある。
また、残像の低減には、前フレームを繰り返すか、あるいは連続する2フレームを補間する中間フレームを生成するという対処法がある。これについては、 LEDバックライトのオン/オフの切り替え速度が高速化したことにより、黒色(バックライトがオフ)の中間フレームを挿入するという手法がよく使われるようになった。
ここまで、LCDの進化の過程と最新の技術について解説してきた。その中で触れたとおり、LEDバックライトの登場によって改善を見たとはいえ、バックライトを使う限り、その種類や構造に関係なく、ディスプレイの厚さと消費電力の点でデメリットがあることに変わりはない。LCDの大きな欠点は、この点にあると言ってもよいだろう。それ故、消費電力の高いバックライトを使わなくても済むことが有機ELディスプレイ(OLED)の大きなセールスポイントになる。OLEDは長年、LCDに取って代わると言われ続けてきたが、(小型アプリケーションにほぼ限られるものの)やっと期待どおりに採用されるようになってきた。ここでは、OLEDについて解説することにしよう。
OLEDは自発光素子を使用しているため、バックライトを必要としない。バックライトが付いているディスプレイと違って曲げることができるため、電子部品を織り込んだ布や、曲げられる看板といった新しい分野での応用が期待されている。OLEDの広い視野角と鮮明な色、暗い場所におけるコントラスト比の高さは、感動的ですらある。それに加えて、OLEDはLCDより数桁速い応答速度を実現している。
しかし、OLEDは寿命(特に青色スペクトル有機材料の寿命)があまり長くないという欠点を持つ。そのため、現状では短寿命の電子機器での利用がほとんどである。OLEDでは、本体が故障する前に、すべてのサブピクセルが時間とともに劣化し、カラーバランスが悪くなってしまう。また、OLEDは直射日光などの強い外光の下では見づらくなる傾向がある。さらに、ブラウン管ディスプレイやプラズマディスプレイのように、長時間同じ画面を表示したときに映像の跡が残る焼き付きを起こしやすい。
OLEDの消費電力は、黒っぽい画面が大半を占めるコンテンツでは非常に優れている。それとは逆に、明るく白っぽい背景に黒い色の文字列を表示する場合など、明るい表示が大半を占めるコンテンツでは、LCDとバックライトを組み合わせた場合よりも消費電力はかなり多くなる可能性がある。
OLEDを効率的かつ大量に生産するための課題はまだ残っているし、製造メーカーの数も限られている。例えば、台湾HTC(High Tech Computer)社は2009年、OLEDを搭載した携帯電話機を発売したが、後にOLEDが供給不足になったため、LCDに置き換えた。
Samsung社は、現在、OLEDを使用している企業としては最大手と言えるであろう。同社は、自社のカメラや携帯電話機などに小型のOLEDを採用している。また、同社は、LCDテレビを大型のOLEDを使用したものに置き換えるという野望を頻繁に口にしているが、この野望は、少なくとも短期的には夢物語くらいにしか聞こえない。台湾や中国などのLCD企業との競争が、脅威として重くのしかかっているからだ*10)。
※8…Taub, Eric A, "UK Nixes Samsung's 'LED' TV Campaign," The New York Times, Sept 8, 2009, http://gadgetwise.blogs.nytimes.com/2009/09/08/uk-nixes-samsungs-led-tv-campaign/
※9…『3D普及への道』(Brian Dipert、EDN Japan 2010年8月号、p.20)
※10…Dipert, Brian, "The large-screen OLED TV: Samsung may indeed make it a reality, and Taiwan and China may be key," EDN, June 17, 2010
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