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ディスプレイ技術の止まらない進化LCDを追随する有機EL、電子ペーパー(5/5 ページ)

» 2011年05月01日 00時03分 公開
[Brian Dipert,EDN]
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次世代のディスプレイ

 LCDもOLEDも応答速度は速くなり、コンピュータ機器や多人数参加型ゲーム機器などのように高い性能が要求される用途においても、遂にブラウン管ディスプレイの座を奪えるまでになった。だが、注目すべきディスプレイ技術はほかにも存在する。電子ペーパーディスプレイがその一例である(図2(a))。

 現在、多くの電子書籍リーダーやそれに類似する機器に採用されているのは、米E Ink社の電子ペーパーであろう。同社のホームページでは、電子ペーパーに用いられる電子インクについて次のように説明している*11)


図2 電子書籍リーダーと電子ペーパー 図2 電子書籍リーダーと電子ペーパー (a)は、米Amazon社の最新の電子書籍リーダー「Kindle」(左)と「Kindle DX」。これらは、コントラスト比が高いE Ink社の第2世代電子ペーパー「Pearl」を搭載している(b)。Barnes&Noble社は、最新の電子書籍リーダー「Nook Color」に、価格は高いが色彩に富むLCDを搭載することを決定した(c)。(d)は、OLPCの「XO-1」である。OLPCに採用されたことで、 Pixel Qi社はディスプレイ事業の成功の礎を築けるのではないかと考えている。一方で、Qualcomm社はチョウの羽の発色の原理を応用した「Mirasol」ディスプレイを開発した(e)。MEMSを用い、IMOD方式で実現している。

 「電子インクの主な構成要素は、直径が人間の毛髪と同じくらいの数百万個の小型マイクロカプセルである。各マイクロカプセルには、正に帯電した白色の粒子と負に帯電した黒色の粒子が入っており、これらの粒子は透明な液体の中で浮遊している。負の電圧がかかると、白色の粒子がマイクロカプセルの上部に移動し、ディスプレイに白色が表示される。反対に、正の電圧をかけると黒色の粒子が上部に移動し、その部分は黒く表示されることになる(図2(b))」。

 E Ink社のマイクロカプセルは、電圧をかけていないときには、再び電界が印加されるまで前の状態を保持する。そのため、電子インクを使用したディスプレイは、LCDやOLEDに比べて電池での駆動時間をかなり長く確保できる。また、直射日光の下でも読みやすく、視野角はほぼ180度、解像度は150〜 200dpiを実現している。E Ink社は2010年、「コントラスト比を50%向上させた」(同社)第2世代の「Pearl」技術を発表した。同社は「Pearlの応答速度は1ms以下」と主張している。しかし、リフレッシュレートは1秒当たりわずか数フレーム以下のレベルで、ページをめくった際の反応が遅いほか、ゴーストが発生して煩わしく、フレームレートの低いビデオコンテンツを表示する能力すら備えていない。

 電子インクを利用したカラーディスプレイの商品化は今後加速すると考えられる。実際、ここ最近開催されている各種フォーラムなどでは次々と試作品が発表されている。ただし、それらは色の範囲が限られる上にコントラスト比も低く、競合するLCDやOLEDに比べて見劣りする感は否めない。こうしたことから、アニメーションやビデオクリップなどが含まれる電子書籍向けのリーダー端末では、電子インクディスプレイは積極的には採用されていない。

 例えば、米Barnes&Noble社が2009年10月に発表した電子書籍リーダー「Nook」には、モノクロの電子ペーパーディスプレイ(とカラー LCD)が搭載されていた。しかし、同社が2010年10月に発売した249米ドルの電子書籍リーダー「Nook Color」には、電子ペーパーディスプレイではなく、1024×600画素、7インチ型のLCDが採用された(図2(c))。Barnes&Noble社は、安価なモノクロ表示の電子書籍リーダーと、高性能のカラータブレットコンピュータの間の道を模索しているようだ。

 こうした中、LCDとOLED、さらには電子インクの優れた性質を組み合わせようと取り組むベンチャー企業が登場し、市場での期待を集めている。そうした企業の中でよく知られているのが台湾Pixel Qi社である。同社は、OLPC(One Laptop per Child)でCTO(最高技術責任者)を務めたことのあるMary Lou Jepsen氏によって設立された。OLPCは、発展途上国の子どもたちに、高耐性で低価格のノート型パソコンを提供することを目的とした非営利団体(NPO)である。

 Pixel Qi社のディスプレイは、製造装置や生産フローの面でLCDと高い互換性を持つ。このことは、供給の増加とコストの削減を同時に求められる現状では重要なポイントになると言えるだろう。

 また同社の製品は、「LCDモード」と「電子ペーパーモード」を備えたマルチモードディスプレイとなっている。LCDモードは一般的なLCDと同様にフルカラー表示が可能でリフレッシュレートも高い。バックライトをオフにすることで、太陽光の下でも読みやすいモノクロの電子ペーパーモードに切り替わる仕組みになっている。

 Pixel Qi社のディスプレイは、OLPCが開発した「XO-1」に初めて採用された(図2(d))。また、インドNotion Ink社が発売したタブレット端末「Adam」(米NVIDIA社のARMベースプロセッサ「Tegra 2」を搭載)も、Pixel Qi社のディスプレイを採用している。そのほか同社は、パソコンの自作やLCDからの交換向けに、10.1型のマルチモードディスプレイ「3Qi」を 275米ドルで販売している。

 また、米Qualcomm社が開発したディスプレイ「Mirasol」も興味深い(図2(e))。MirasolはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いたディスプレイで、チョウの羽に光が当たると虹色に見える原理を応用したIMOD(Interferometric Modulation:干渉変調)を利用している。個々のディスプレイ素子は、薄膜を張り付けたガラス基板と反射膜の2枚の導体板で構成される。薄膜と反射膜の間には空隙(エアギャップ)が形成されている。

 Mirasolのディスプレイ素子は以下の2つの安定した状態(双安定性)を持つ。まず、電圧が印加されていないときは、薄膜と反射膜は離れたままとなる(開いた状態)。電圧をかけると薄膜と反射膜が静電気によって引き寄せられる(閉じた状態)。開いた状態のときに周辺光がディスプレイ素子に入ると、光は薄膜と反射膜の両方から反射される。このとき、エアギャップによって、薄膜の反射光と反射膜の反射光の位相にわずかなずれが生じる。この位相のずれを利用し、光を干渉させることでカラー表示を行う仕組みだ。

 これまで、Mirasolの主な採用例と言えば、台湾Foxlink社との提携による小型のモノクロディスプレイであった。しかし、Qualcomm社は最近、色域に制限があり、画面がやや暗めの試作品の売り込みを始めている。大口の受注が確実になれば、20億米ドル規模の投資を行って、専用の製造工場を建設すると言われている*12)

復活したプラズマ、終えんを迎えたSED

 米EDN誌が最後に直視型ディスプレイの話題を取り上げたのは、2005年初頭のことだった。実を言うと、このとき筆者は、プラズマディスプレイが社会に受け入れられるようになるかどうかについては懐疑的だった*A)。確かに価格的には優位だったが、LCDメーカーが積極的にパネルを大型化していたことや、プラズマディスプレイには発熱量の問題があったことから、LCDに比べて後れをとっている感が否めなかったからだ。実際、プラズマディスプレイのメーカーはこの事業から撤退し始め、代わってLCDメーカーの数が増えていった。さらに、プラズマディスプレイはLCDより消費電力が多いことに加え、重量が重く、標高の高い場所では放電ガスの圧力により動作に不具合が起きるということもわかった。そのため、「もはやプラズマディスプレイに未来はない」というのが多くの業界関係者の見方だったのである。

 だが、どうやらその結論は短絡的すぎたようだ。パナソニックが2010年2月に世界初となる家庭用の3Dプラズマテレビを発表するなど、プラズマディスプレイは少なくとも一時的に活気を取り戻しているように見える。プラズマ技術では、ほぼ瞬時に画素のリフレッシュが行える。そのため、ゴーストやちらつきなど、LCDを悩ませている画像の乱れが生じないというメリットをアピールすることができる。

 とはいえ、生き残ったプラズマディスプレイメーカーは現状に安んじているわけにはいかない。消費者がどの程度3Dプラズマディスプレイに関心を示すかわからないし、LCDメーカーも同分野におけるプラズマディスプレイの牙城を崩すべく、開発に取り組んでいるからだ。

 プラズマディスプレイは何とか前進を続けているが、一方で、約6年前に有望視されていたSED(Surface-conduction Electron-emitter Display:表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)は残念ながら完全に脱落してしまった。SEDの主要企業であったキヤノンと東芝の合弁会社は、かつてSEDを“ブラウン管ディスプレイの現代版”として推奨し、開発を進めていた。しかし、製造コストが予想以上に高かった上に、開発にも予想以上の時間がかかってしまった。こうした問題に加えて、米Applied Nanotech社(当時はNano-Proprietary社)が特許訴訟を持ち込んで混乱したほか、競合するLCDの力が巨大化したこともあり、遂に SEDは事実上の終えんを迎える結果となったのである。



脚注

※11…Electronic ink, Electronic Paper Displays, http://www.eink.com/technology.html

※12…Savov, Vlad, "Qualcomm building a $2b Mirasol plant after winning 'major client'?" Engadget, Aug 20, 2010, http://www.engadget.com/2010/08/20/qualcomm-building-a-2b-mirasol-plant-has-a-major-client-alre

※A…Dipert, Brian, "Master of some: direct-view-display technology," EDN, March 5, 2005


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