メディア

第38回 「先端FPGAにみるDSP実装の柔軟性」FPGA Insights

「18ビット精度モード」か「高精度モード」を選べるアルテラFPGAのDSPブロック  FPGAやDSPの既成概念を覆す「可変精度DSPブロック」がいま注目を浴びている。アルテラの28nm FPGAに内蔵されたこの革新的なブロックは、高精度信号処理向けのネイティブサポートと、FIRフィルタ、FFTなどの共通のDSP構造向けに最も効率的な実装の組み合わせを提供する。本稿では、ターゲット機器およびDSPアルゴリズムごとに乗算器の精度を変えられ、FPGAリソースを効率的に使える可変精度DSPブロックのメリットを探る。

» 2011年08月31日 00時00分 公開
[PR/EDN Japan]
PR

3ファミリに共通するDSPアーキテクチャ

 FPGAは、高い演算性能が求められるDSPのプラットフォームに用いられる(本稿で用いる「DSP」は、Digital Signal Processing:デジタル信号処理の意。Digital Signal Processorは「DSPプロセッサ」と表記する)。

 数ギガMAC/s(1秒当たりの演算回数)なら市販のDSPプロセッサでも対応できるが、それ以上になるとハードウェアの特長である並列処理が効くFPGAが適していると言われる。特にサンプリング周波数が数十MHz以上、タップ長が比較的短いFIR(有限インパルス応答)フィルタやFFT(高速フーリエ変換)、DCT(離散コサイン変換)といったDSPアルゴリズム、データ変換を伴うデータパスの実装に使われることが多い。

 一方、高精度な浮動小数点演算は専用DSPプロセッサが使われることがほとんどで、FPGAは固定小数点演算に限られることが多い。最適設計されたDSPプロセッサとソフトウェアの組み合わせに比べ、消費電力や回路サイズが大きくなるFPGAは、演算性能をさほど求められないDSPアプリケーションには適さないと見られてきた。

 その既成概念を変えそうなのが、アルテラの28nmFPGA製品が採用する「可変精度DSPブロック」である。その名の通り、乗算器の精度(入力データのオペランド幅)を変えられるのが特徴である。ローエンド「Cyclone® V」からミッドレンジ「Arria® V」、ハイエンド「Stratix® V」まで、アルテラFPGAの3ファミリに共通するDSPアーキテクチャだ。

乗算器精度を選べる可変精度DSPブロック

 最近のFPGAは、大規模なDSP向け回路ブロックをハードウェアIPとして標準装備する。その演算性能は、搭載可能な乗算器の個数と動作周波数で決まるが、プロセス微細化により数千個の乗算器が数百MHzで稼働し、最大演算性能が1テラMAC/sを超えるFPGAも登場している。ただし、乗算器の精度は18×18ビット、18×25ビットなどで固定されてきた。

図1:「18ビット精度モード」か「高精度モード」を選べるアルテラFPGAのDSPブロック 図1:「18ビット精度モード」か「高精度モード」を選べるアルテラFPGAのDSPブロック

 これに対してアルテラFPGAの可変精度DSPブロックは、9ビット・18ビット・27ビットの精度をネイティブサポートし、DSPブロックごと「18ビット精度モード」もしくは「高精度モード」を選べる。これが「可変」と称するゆえんだ(図1)。

 ハイエンドのStratix Vでいえば、各DSPブロックでコンフィギュレーション可能なのは、18ビット精度モードで3個の9×9(ビット)乗算器、2個の16×16/18×18乗算器だ。後者の場合、FIRフィルタなどで多用される、2個の乗算器の出力を加算(減算)する「加算モード」も使える。一方、高精度モードでは、1個の18×36乗算器か27×27乗算器である。

図2:アルテラFPGAの各DSPブロックでコンフィギュレーション可能な乗算器精度 図2:アルテラFPGAの各DSPブロックでコンフィギュレーション可能な乗算器精度

 ミッドレンジのArria VとローエンドのCyclone VもStratix Vと同じく9×9乗算器から27×27乗算器までをサポートするが、大きな違いは18×18乗算器の代わりに18×19乗算器を用いること。18×19乗算器では、18+18ビットの前置加算器(プリアダー)から出力される 19ビット(追加された1ビットで正負の符号を表す)の結果をフルに受け入れ可能になる。(図2)。

必要なFPGAリソースは2分の1、3分の1

 可変精度DSPブロックの最大のメリットは、ターゲット機器およびDSPアルゴリズムごとに乗算器の精度を変えられ、FPGAリソースを効率的に使えることだ。

 ターゲット機器でいえば、例えば、監視カメラなら9×9ビット、放送機器なら16×16ビット、ワイヤレス機器なら18×18/18×25ビット、医療画像機器や軍事機器なら18×18/18×36/27×27ビットといった使い分けである。DSPアルゴリズムでいえば、低精度なビデオ・画像処理から高精度な浮動小数点FFTまで対応できる(浮動小数点機能については後述)。

 こうした可変精度DSPブロックと、18×18ビットや18×25ビットで乗算器の精度が固定されたDSPブロックを比べれば、どちらがリソースを無駄なく使え、性能や消費電力の面で有利かは明らかだろう。

 100個の9×9乗算器を必要とするケースで考えてみると、固定精度では精度が過剰な18×18ビット、18×25ビットの乗算器を1つずつ搭載したDSPブロックが100必要になる。それがアルテラFPGAなら各DSPブロックに9×9乗算器を3個ずつ埋め込めるため、必要なDSPブロックは34で済む。

 また、18x36ビットという高い精度要求に対して、18×18乗算器や18x25乗算器なら2つのDSPブロックを接続する必要があるが、アルテラFPGAは1つのDSPブロックで実現する。

 つまり、ほとんどの要求精度について、可変精度DSPブロックは固定精度に比べて3分の1、2分の1のリソースで対応できる。大規模なDSPを作り上げる場合、この差は大きい。

 従ってDSPブロックの数だけでアルテラFPGAと他社製FPGAのスペックを比較すると評価を間違えることになる。一例を挙げると、Arria V(5AGXB3)のDSPブロックは1045なのに対し、同等クラスの競合製品は1440だが、ほとんどのケースで搭載できる乗算器の数はArria Vの方が多くなる。

64ビットバスで精度劣化のないカスケード接続

 可変精度DSPブロックでは、DSPブロックのカスケード接続に64ビット幅の出力バスを用い、複数の乗算器をつなげるだけで27×27より高い精度の乗算器、複素数乗算器を実現できる。外部ロジックを使わないため、ここでも消費電力、回路サイズ、性能の面で有利だ。  例えば、18ビット精度モードのDSPブロックを2つカスケード接続すると、36ビットのフル分解能を持つ独立した18×18乗算器を3個搭載できる。また、高精度モードのDSPブロックを2つカスケード接続すれば36×36乗算器、4つ接続すれば、倍精度(64ビット)浮動小数点演算に使える54×54乗算器も実現可能である(54×54乗算器には外部ロジックが必要)。

図3:Stratix Vで複数のDSPブロックをカスケード接続した場合の乗算器精度 図3:Stratix Vで複数のDSPブロックをカスケード接続した場合の乗算器精度

 また、複素数を扱う複素乗算器はFFTやDCTでよく使われるが、ここでも可変精度DSPブロックは有利だ。2つのDSPブロックをカスケード接続して18×18複素乗算器、3つ接続して18×25複素乗算器、4つ接続して18×36/27×27複素乗算器をそれぞれ実現できる。27×27複素乗算器の場合、単精度(32ビット)浮動小数点FFTに使えるだろう(図3)。

FPGAで容易に浮動小数点演算を実現する

 可変精度DSPブロックは、固定小数点演算のみならず、高精度な浮動小数点演算にも容易に対応できる点が画期的である。 例えば、IEEE754が規定する浮動小数点演算の標準フォーマットは、32ビット単精度で仮数部は23ビット。これに符号と隠しビットのそれぞれ1ビットが加わる。この仮数乗算には、18x18乗算器なら4個、18x25乗算器なら2個が必要だが、27×27乗算器なら1個で済む。これは業界初である。このような浮動小数点演算を必要とするDSPアプリケーションは増えている――軍用機器では時空間適応レーダー、ワイヤレスシステムならMIMO(多入力・多出力)処理を伴うLTE チャネルカード、医療画像機器ではMRIやCT、計測器ではスペクトラム解析機など――こうした分野では浮動小数点FFTなどのDSPアルゴリズムが求められる。

 アルテラの28nmFPGA製品で採用された可変精度DSPブロックは、「浮動小数点を取り扱うDSPアプリケーションにはFPGAは適さない」という既成概念を覆すもので、先端FPGAの柔軟性を示す特徴的な機能といえる。これまで消費電力や回路サイズの点からFPGAとDSPプロセッサの使い分けをしなければいけなかったケースでも、可変精度DSPブロックを活用することでFPGAリソースを効率的に使えるようになった。性能要件が高まるDSPアプリケーションにも、FPGAを積極的に活用できるようになったといえるだろう。

 次回は浮動小数点に焦点をあて、浮動小数点DSPの概要と課題を説明し、FPGA上での実装フローについて紹介する。

(内容は変更される可能性があります。ご了承ください)。

公開中(2011年2月〜2012年1月掲載分)

第27回 Altera社、28nmのFPGA製品群を拡充 さまざまなシステムの要求に対応

第28回 FPGAの組み込み開発最前線(前編)

第29回 FPGAの組み込み開発最前線(後編)

第30回 「システム設計者の選択肢を広げるSoC FPGA」(前編)

第31回 「システム設計者の選択肢を広げるSoC FPGA」(後編)

第32回 用途別に探すFPGAの設計事例(前編)

第33回 用途別に探すFPGAの設計事例(後編)

第34回 こんなに使える!CPLD活用術(前編)

第35回 こんなに使える!CPLD活用術(後編)

第36回 システム統合を可能にする最新開発ツール(前編)

第37回 システム統合を可能にする最新開発ツール(後編)

第38回 「先端FPGAにみるDSP実装の柔軟性」

第39回 「FPGAで実現する浮動小数点DSP」(前編)

第40回 「FPGAで実現する浮動小数点DSP」(後編)

第41回 システムの要求に応える28nmFPGA(その1)〜高速シリアル伝送設計のためのトランシーバ・ツール・キット〜

第42回 システムの要求に応える28nmFPGA(その2)〜28nmFPGAデザインにおける消費電力の最適化〜

第43回 組み込みシステム設計者のニーズに応える最新SoC FPGA(前編)

第44回 組み込みシステム設計者のニーズに応える最新SoC FPGA(後編)

第45回 最先端の28nmFPGAと最新のエンベデッド・ソリューション 〜ET2011リポート(前編)〜

第46回 最先端の28nmFPGAと最新のエンベデッド・ソリューション 〜ET2011リポート(後編)〜

第47回 システムの要求に応える28nm FPGA(その3) 〜パーシャル・リコンフィギュレーションの設計〜

第48回 こんなところにCPLD――産業用途でみるCPLD活用事例(前編)




関連情報

●DSPソリューション

●Arria V&Cyclone V可変精度DSPブロックで実現する高性能信号処理

●FPGAベースDSPデザインの利点

●高精度、高性能信号処理を実現する可変精度DSPアーキテクチャ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本アルテラ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日

FPGA LEARNING CENTER      [PR]

FPGAについて、基礎からわかりやすく解説しています。


初級者から熟練者まで、FPGA設計技術を向上させたいすべての人のためのトレーニング講座。
オンライン講座は視聴無料です。

ALTERA FPGA最新情報        [PR]

アルテラの製品・ソリューション・サービス等についての最新情報をお届けします(週1回)

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.