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電源電圧や温度に依存しない高安定の基準電圧源を作るオペアンプ+トランジスタ“ちょい足し”回路集(4)(1/2 ページ)

オペアンプICに個別トランジスタを“ちょい足し”して性能を高めたり機能を拡充したりできる定番回路集。今回は、オペアンプICとトランジスタを組み合わせて定電圧源を作ります。定電圧源の専用ICを使わなくても、数個のトランジスタで温度依存性が小さい安定した基準電圧を生成することが可能です。

» 2012年06月27日 12時43分 公開
[祖父江達也アナログ・デバイセズ]

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「オペアンプ+トランジスタ“ちょい足し”回路集」連載一覧

今回紹介する回路の概要

実現できる機能 電源電圧や温度の影響を受けにくく、一定値に安定した電圧を出力可能な高精度の基準電圧源を簡単に構成できる。
こんな場面で有効 市販されている定電圧出力の基準電圧ICが、コスト的に許容できなかったり、社内で使用可能な部品として登録されていない、登録済みでも入手困難といった場合。




 物事の判断には、何かしらの“基準”が必要です。電子回路でもそれは同じ。例えば、入力値の大小に応じて出力を変化させるコンパレータや、温度変化を検知する回路では、大小の判断の基準になるしきい値を与えなければなりません。その基準がふらついてしまっては、判断の結果も揺れてしまう。ですからその基準は、温度や電源電圧などが変動しても安定して一定値を保ち続けることが求められます。電子回路において、そうした“基準”の役割を担うのが、基準電圧源です。

 実際の回路設計では、市販されている定電圧出力の基準電圧用ICを使うことが多いかもしれません。しかし、そうしたICの採用がコスト的に許容できない場合もあるでしょう。そのICが、皆さんの社内で使用可能な部品として登録されていなかったり、登録済みでも入手困難で調達できないという状況もあるかもしれません。

 ツェナーダイオード(定電圧ダイオード)を使って簡易的な定電圧回路を組むという手もありますが、定電圧を発生させるためには高電圧(ツェナー電圧や降伏電圧と呼ばれる電圧です)を印加する必要がありますし、その原理上、ノイズが多いという大きな弱点を抱えています。

シリコンの物性を利用する

 そこで今回は、オペアンプに数個のトランジスタを組み合わせて簡単に構成できる、高精度の基準電圧生成回路を紹介しましょう。この回路は、トランジスタに使われる半導体材料のシリコンの物性である「バンドギャップ電圧」を利用して、温度や電源電圧の変動に対して安定した一定の電圧値を作り出すもので、「バンドギャップリファレンス(Band Gap Reference:BGR)」と呼ばれています。

 まず図1を見てください。バンドギャップリファレンスの機能ブロックを示しています。温度特性の傾斜の大きさが同じで向きが正負逆になっている2つの電圧値(図中のVBEとKVT)を足し合わせることで、両者の温度特性を打ち消し合って、最終的に温度依存性の無い安定した電圧値(図中のVOUT)を出力する仕組みです。

図1 バンドギャップリファレンス回路の機能ブロック図 図1 バンドギャップリファレンス回路の機能ブロック図 (クリックで画像を拡大)

 こうすれば、高精度な定電圧源を実現することが可能です。具体的な回路例を図2に示しました。オペアンプICを1個、トランジスタを2個、抵抗を3個使って構成した回路です。2個のトランジスタはいずれもベースとコレクタをショートさせており(いわゆるダイオード接続)、それぞれが1個のダイオードとして機能します。この回路例では、出力電圧は約1.4Vになり、ツェナーダイオードを使った定電圧源に比べて低い上に、安定しています。

図2 バンドギャップリファレンスの回路例 図2 バンドギャップリファレンスの回路例 (クリックで画像を拡大)

 この図2と先に示した図1を見比べてみてください。図1における電流源をこの図ではR1で置き換えており、図1中でVBEを作り出すダイオード接続のトランジスタは、この図ではQ1に相当します。図1の電圧発生回路の機能は、図2中ではQ2R3が果たしており、その出力の増幅率に相当するKは、R1R2R3の抵抗値の比によって決まります。

部品の選び方

 ここからは、バンドギャップリファレンスを構成する部品の選び方を説明していきます。

 まずはトランジスタから。バンドギャップリファレンスは、トランジスタのpn接合の温度特性(順方向バイアス時に負の温度係数を持つ)をうまく利用して、安定した電圧を作り出す回路です。そのため図2の回路構成では、2個のトランジスタの温度係数が一致していなければなりません。また、両者の飽和電流(IS)や直流電流増幅率(hFE)がそろっていることが前提になります。従って、1枚の半導体チップに2個の素子を作り込んでおり、熱的および電気的な特性がそろっている(平衡特性が高い)、いわゆる「ワンチップ・デュアルタイプ」のトランジスタを強くお勧めします。具体的な製品としては、「2SC3381」やアナログ・デバイセズの「MAT-01」などが利用できるでしょう。

 やむを得ず個別のトランジスタを2つ用意して使う場合は、両者の電気的な特性がそろっていることに加えて、2個を熱的に結合させることが重要です。パッケージが「TO-92」タイプの品種であれば、できれば事前に電気的な特性で素子を選別した上で、2個のパッケージを背中合わせに貼り付けて使います。「SOT」タイプの品種なら、2個のパッケージを可能な限り近づけて配置し、トランジスタを取り付けるプリント基板上のパターンを広めにとって、熱伝導性を高めておくと良いでしょう。

 次はオペアンプICです。単電源で動作し、低い入力電圧も扱うことができ、入力オフセット電圧が低い品種を選んでください。入力端子につながるトランジスタのコレクタ電流に影響を与えないように、バイアス電流が小さく、入力抵抗が大きいことも不可欠な条件です。例えば、単電源動作でレールツーレール入出力に対応できる「ADA4091」などが使えます。

 最後は抵抗です。図1の機能ブロック図で示したKの値は、図2の回路図中にある3個の抵抗(R1R2R3)の比によって変わります。またこの回路では、トランジスタの温度特性は考慮していますが、抵抗の温度特性は無視しており、温度係数が平坦だと仮定しています。ただし実際には抵抗にも温度係数があり、温度が変化すれば抵抗値が変化し、Kの値に影響します。そのため抵抗は、仮定した条件になるべく近づけられるように、金属皮膜タイプなどの温度特性に優れた品種を選ぶ必要があります。抵抗値によっても温度係数が変わりますから、各抵抗の値はなるべく同じにしておいた方が良いでしょう。図2の例では、R1R3を同じ抵抗値に設定しました。

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