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DSP選定に役立つLSIの分類とDSP、ASICの比較イチから学ぶDSP基礎の基礎(7)(2/2 ページ)

» 2012年08月17日 15時52分 公開
[日本テキサス・インスツルメンツ]
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 標準品としてのDSPを作るための乗算器やメモリなどのIPは、ASICのライブラリにも含まれています。ということはASICを使えばユーザーが自分でDSPを設計することが可能だということです。そうすると市販のDSPを買わなくても、自分でASICでDSPを設計して使えばよいということになるのでしょうか? 確かにASICでDSPを作ることはできますが、それがユーザーにとってメリットがあるかといえば、否定的に考えざるを得ません。その理由は以下のとおりです。

 標準品とASICには1つだけ設計上の大きな違いがあります。それは設計作業の分担です。標準品はすべてLSIメーカーが自社内で設計しますが、ASICは回路設計をユーザーが行いメーカーが製造を請け負うという形になります。

 ASICのユーザーとメーカーの作業分担は図2のようになります。通常はユーザーは回路設計と論理合成およびシミュレーションまでを行い、チップのレイアウト設計には直接関与しません。レイアウト以降はメーカーの分担ですが、一般的にいってメーカーでは時間をかけてASICのチップサイズを小さく作り込むような設計作業はしません。

photo 図2 ASICのユーザーとメーカーの設計作業の分担

 レイアウトの結果、受注時に見積もったチップサイズに納まればそれで良しとして、それ以上チップサイズを小さくするような手間は掛けないのです。レイアウトツールを所有しているユーザーがLSIメーカーとの特別な契約に基づいて自らレイアウト設計までを行うこともありますが、ユーザーはLSIのレイアウトに関するノウハウではメーカーにかないません。そのためにメーカーが時間をかけてチップサイズをできる限り小さく設計する標準品並みの「中身の詰まった」レイアウトをASICで実現することは困難です。

 従って、同じ製造プロセス、同じ設計ツールを使ってユーザーがASICでDSPを設計したとしてもチップサイズ、すなわちチップの値段で標準品のDSPにはかなうはずがありません。たとえ標準品と同じチップサイズを実現できたとしても、ASIC開発には数千万円単位の開発費が掛かり、コスト面でまったくメリットがありません。

 あくまでもASICは標準品のLSIでは得られない機能をユーザーが自ら作り出すためのものであって、標準品を使えばそれで済む処理をASICで置き換えるような使い方はしないのです。チップサイズ、すなわちチップ価格以外にも標準品のDSPにASICがかなわない点があります。

 それはDSPの開発環境です。DSPメーカーは単にDSPチップを売るだけではなく、アセンブラ、コンパイラや統合開発環境、それにエミュレータや評価ボードなどのツールも提供しています。さらには各種信号処理のアルゴリズム(IP)なども準備しています(一部のIPはDSPメーカーからではなく、サードパーティの会社から提供されている)。

 ユーザーがASICでDSPを作ったとしても、これらの開発環境までを自前でそろえるのは極めて困難です。DSPメーカーの収益源はあくまでもDSPチップの売り上げですが、メーカーはDSPを売るだけでなく、ユーザーがDSPを使いこなすための設計環境・設計ツールの整備にも大変な労力と費用を掛けていることに注意してください。

 DSPチップを買うということは単にパッケージに入ったシリコンを買っているのではなく、DSPメーカーの技術・ノウハウの詰まったLSIの形をしたIPを買っていることになります。なおASICやFPGA用に市販されているDSPのIPコアが存在しますが、これらはASICでなければできない高サンプリング周波数やマルチチャネルのハードウェア処理とDSPのIPコアを用いたソフト処理を組み合わせて1チップで処理するためのものであることに注意してください。DSPのIPだけが1つ入っているASICを作って、標準品のDSPの代わりに使うようなことはしません。

 最後に標準品のDSPとASICの特徴をまとめると表2のようになります。用途をよく考えれば、DSPとASICは直接競合する製品ではなく、必要に応じてそれぞれを使い分ければいいことが理解できます。また今回のDSPとASICの比較から、DSPを選ぶ際はDSPチップ単体の性能だけではなく、メーカーが提供する設計環境・設計ツールの充実度も選考のポイントとなることもお分かりいただけたかと思います。

photo 表2 DSPとASICの特徴
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