特定のセル群の電圧が高いことを検出すると、ASICのオンチップ回路が働いて、特定のセル群を外部抵抗回路網に接続する。選択されたセル群はある程度放電して電圧差が減る。こうして電圧の差に起因する問題を和らげる。このような簡略なパッシブセルバランス方式は信頼性の高い、コストの低い手法であるが、放電抵抗内でエネルギーが熱として失われるため、効率が低くなる(図5)。
これに代わる手法もある。アクティブセルバランス方式だ。この方式では、電圧の最も高いセルからの電荷を受け取って蓄積し、電圧の最も低いセルに再配分する。電荷の蓄積と再配分にはコンデンサやインダクタ、トランスを使用し、セルを順次切り替えて状況に応じて電荷を蓄積し、放電(再配分)する。アクティブ方式は、パッシブ方式に比べエネルギーの保存(効率)という点で優れるが、システムのコストと複雑さが増してしまう。
リチウムイオン電池パックの充電と放電には、定電流法と定電圧法を利用する。これらの手法では充電システムに一対のMOSFETを使い、所要の充電電圧に到達すると充電電流を減らす。逆に放電動作時には電流を増やす。L9763はパワーMOSFETを駆動するためのチャージポンプを備える。
L9763は、監視対象となる電池セルの測定データをSPI(Serial Peripheral Interface)を介してFreescale SemiconductorのマイコンS9S08DZ60に送る。加えて、L9763は、5VのLDOレギュレータ出力もこのマイコンに供給している。電池管理機能全体としては、個々のL9763がオンチップのインタフェースを介して相互にリンクしており、プライマリ制御ユニットが垂直デイジーチェーン通信を介して個別にアクセスする方式を採る。
既に解説した通り、リチウムイオン二次電池セルのSOCを推定するのは難しく、計算処理能力が必要だ。シボレー・ボルトの設計では、各測定サブシステムにおいてL9763とS9S08DZ32がペアとなって働く。S9S08DZ32はHCS08コアを採用した8ビットマイコンであり、40MHzで動作する。32Kバイトのフラッシュメモリと2KバイトのRAM、1KバイトのEEPROMを内蔵しており、外部発振器からクロック信号の基準となるリファレンス周波数(4MHz)を受け取る。
GMとLG Chemの設計では、L9763による電圧と電流の測定結果を基にして、マイコンがSOCを推定する計算を実行する。SOC推定アルゴリズムは社外秘だが、ハードウェアの構成と保守手順から判断すると、2つの手法を組み合わせたもののようだ。まず、あらかじめ記録したセル特性を利用した、電圧に基づく推定だ。次に、適当な間隔で行われる再校正のための充電の際に、状態を直接測定した結果である。IBMが開発した詳細なシステムモデリング環境も役立っている。SOCを推定する計算を最適化するために役立つデータ群を見つけるモデリング環境として有用である。さらに、幅広くサンプリングされた電池の動作条件に対するアルゴリズムの有効性を実証するための理想的なプラットフォームとしても機能する。
HCS08コアにはコンピュータ動作保証(COP:Computer Operating Properly)のためのウオッチドッグタイマーなどの安全機能が備えられている。動作信頼性が高まる他、アプリケーションソフトに回復不可能な不具合が生じた場合は、自動的にリセットがかかる。
自動車用途で特に重要なことは、S9S08DZ32がオンチップで精巧なCANコントローラーを内蔵していることだ。CANコントローラーは使われていないときには選択的に電源オフになる。スリープモードに設定することもできる(図6)。オンチップのコントローラーは、FIFO構成の受信バッファを5個、送出メッセージの優先選択を可能とする送信バッファを3個備えており、リアルタイム動作の予測可能性(制御可能性)を確保できる。送信メッセージの順位付けも可能だ。
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